『何が戦争を止めるのか』書評・目次・感想・評価

[読みやすさ 7/10] 専門用語は少ないのだが終盤の概念論が同語が続きわかりにくい。 
[何度も読む 6/10] 一度、読めば十分。 
[読後感 7/10] 戦争回避の奇策を期待していただけにありきたりで残念。 
[学び 8/10] リアル・リベラルの戦争に対する考え方の点で学びは多い。 
[斬新さ 7/10] 最終章まで斬新な思想・発想を期待していただけに残念。 

【Q1】どんな人にオススメ?

 世界がどうもきな臭くなってきたと思っているあなた。戦争に対して右派にも、左派にも、リアリストにもリベラリストにも賛同できないあなた。

【Q2】この本の弱みは?

 戦争を防ぐ最終結論が発展途上国市場の成長というパイを大きくして分け合うというありきたりで既に行われている内容であること。奇抜でも暴論でもいいから著者にしかないような提案を聞きたかった。

【Q3】この本の強みは?

 戦争へと至る道や、リアリスト、リベラリストの強みや弱みなどが過去の事例や、ビリヤードなどのたとえも含めて丁寧に説明されていること。現状、世界で起こっていることに関してはとても分かり易く書かれている。

何が戦争を止めるのか

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【著者・小原 凡司さんの気になる著書リスト】

 

世界を威嚇する軍事大国・中国の正体

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中国の軍事戦略

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【『何が戦争を止めるのか』目次と読書メモ】

第1章 世界中で「理想」の崩壊が起こっている
 
 世界では人々の不満が戦争の引き金を引きかねない状況が広がっている。
 理想は現実を覆い隠す。
 EU各国では難民が避難先の女性をレイプする事件が多発していたにもかかわらず当局が隠していた。
 日本では難民はほぼ受け入れられていないが実習制度の名の下に何の技能も学べない単純労働に多くの外国人がつかされている。
 脅されたり、給与不払い、性的搾取なども行われている。
 そして多くが行方不明になっている。
 統一的な国家は商人が求めた。
 なぜなら統一的な通貨、単位、移動の自由などが商業にはとても便利だから。
 人も国家も非難されない、もしくは許容範囲内であれば、人のものにも手を出す可能性がある。
 戦争はすべからく自衛のための名の下で始められた。
 侵略戦争となるのは敗戦国となってから。
 
第2章 リベラリズムとその限界
 
 国家は自国の利益を最大化したいという意志を持って行動する。
 貿易協定などの国際的ルールは参加者がそれぞれある程度の不満を持ちつつ、ルールを守った方が利益が大きいと考えることで成り立っている。
 そのバランスを崩すのが台頭する大国で、それを抑え込もうとするのが既存の大国である。
 今の世界情勢では台頭する中国、それを抑え込もうとするアメリカ。
 国家には善悪はない。
 既存のルールに従うのも、破壊しようとするのも、自国の利益を最大化するという目的は一緒であるから。
 既存のルールを破壊したナポレオンや源義経も今では英雄視されている。
 リベラリズムに支えられた世界は既存のルールを破壊するものを悪として成立するので一度破壊が起こるととめどない崩壊となる。
 
!もう一点、国益が必ずしも該当国の利益とイコールでないことも考慮に入れないと危険だ。民主主義であろうと、独裁であろうと、国民の不利益になるとわかっていても時の政府が戦争の引き金を引いた例は多い。!
 
第3章 リアリズムとその限界
 
 台頭する中国と既存の大国アメリカの対立は仕方のないことだと言える。
 だからと言ってそれがすぐに戦争に至る訳ではない。
 なぜなら両国とも戦争が莫大な損失を伴うと理解しているからである。
 しかし、南シナ海などの狭い海域で両国の軍が活動していれば偶発的な事件が起きる可能性は常に存在する。
 現在の中国は遅れてきた客とも言える。
 諸般の事情により発展が遅れて、パーティに遅れてやってきた中国は先に先進国になったアメリカを筆頭とする先進国が料理という利権を平らげ、遅れてきた中国にパーティの立ち位置を与えません。
 当然、中国は不当に思います。
 そして既存のルールに対抗しようとするのです。
 これが現在の状況なのです。
 この状況は過去の日本とよく似ています。
 遅れてきた帝国主義国日本はすでに料理を確保している欧米列強に不満を持ちぶつかりました。
 その後、日本は戦争に敗れ、敗戦国になりました。
 その後、日本は再び世界のルールに挑戦すべく動くのではないかと考えられました。
 高度成長後です。
 在日米軍の将軍が在日米軍は日本が再び軍事大国化するのをふせぐための蓋であるとは発言したのです。
 世界は台頭する経済大国日本をそのように考えていました。
 しかし、ご存知のように日本にはその様な意図はありませんでした。
 そこにこそ、台頭する中国と既存の大国アメリカの戦争をふせぐ答えがあるのです。
 
第4章 柔らかいリアリズムへ
 
 リアリズムは現状を認識するが、現状認識の枠にとどまり、今、パワーバランスが取れているので戦争にはならないということでしかない。
 リベラリズムは未来を創造するが、枠組みに参加しないものは悪という認識に陥りやすい。
 リアリズムは将来の変化を変数として組み込むネオリアリズムに進化したがもう一歩進んで各国の認識を変数として組み込む柔らかいリアリズムを提案する。
 リアリズムは各国を同じ状況なら同じ反応をするとして考えてきた
 これは世界各国をビリヤード玉のように考えていたのだ。
 戦後の日本のように経済大国化しても覇権国家として世界のルールを変えようとは考えなかった。
 日本は大きくはなったが柔らかいビリヤードの玉だったのだ。
 現在、世界では貧富の差が拡大し、不満が渦巻いている。
 その結果、トランプ大統領が生まれ、イギリスがEUを離脱し、極右政党が世界中で力をつけている。
 またロシアは対外的に強硬策を取り続け、強権的なプーチンが政権にとどまり続けている。
 中国は共産党独裁であるがゆえに国民の不満は最終的に政権交代はなく革命になるので、国民に不満をためないように経済発展を続けていくしか方法がなく、対外的に強硬策を取らざるおえない。
 
^_^これは世界中が不満によって硬いビリヤードの玉になりつつあるということだろうか?^_^
 
第5章 理想論抜きで戦争を止める方法
 
 発展途上国の発展というパイを常に大きくすることで経済発展を世界中で行い戦争したら損だという状況を作り上げていくことが理想論抜きに戦争を止める方法だ。
 先進諸国はベーシックインカムなどを導入することで国民の不満を減らすことも必要だ。
 武力を使うか使わないかはともかく軍事オプションを持つことは安全保障上必要。
 
^_^ずっと期待を持たされてきた戦争を防ぐ方法が発展途上国の経済発展のパイをみんなで分け合うという、今までだってやってきたじゃん的な内容でがっかり。もっと革新的な答えがあるのかとずっと読み進めてきたので期待はずれでした。まぁ、戦争を回避する革新的な方法がそう簡単に見つかるようなものでもないということでしょう。それでも多少奇想天外でもびっくりするようなアイデアがあればよかったんですが、、、結局、今、先進国が国民の不満を抑えるために取りうる最適なオプションはベーシックインカムになるようです。その点は全く賛成です。^_^
 
79点
読了まで2時間半