『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか (講談社現代新書)』書評・目次・感想・評価

これは過去に起こったことだが、過去の問題ではない。
志願と言う体裁をとった命令。責任を取らない上層部。真実より権力者の思惑を優先する組織。そして指導者の無能を覆い隠すための精神論。
おそらく読者は現代に起こっている様々なニュース、会社での出来事、学校やコミュニティで似たような事態を思い出すだろう。
今の日本では特攻隊は有り得ないだろうか?
否、恐らく同じことをやるだろう。緊急事態と言い訳し、それが戦術的に有効だとされればきっとやるだろう。
ぼくらはそれを許すだろうか?それを事前に考えておく必要があると思う。
現代においてもあちこちであの特攻隊を産んだ日本軍のような組織の理論が、個人に犠牲を強いている。
我々は今でも特攻隊を産んだ組織の理論がまかり通るのを許しているのだ。
特攻隊。
これは過去に起こったことだが、過去の問題ではない。

 

【著者・鴻上 尚史さんの気になる著書リスト】

 

 

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【『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』目次と読書メモ】

はじめに
 
第1章 帰ってきた特攻兵
 
書籍「特攻隊振武寮 証言・帰還兵は地獄を見た」
特攻隊振武寮──証言:帰還兵は地獄を見た──

特攻隊振武寮──証言:帰還兵は地獄を見た──

 

書籍「陸軍特別攻撃隊」高木俊朗

 

陸軍特別攻撃隊〈第1巻〉 (文春文庫)

陸軍特別攻撃隊〈第1巻〉 (文春文庫)

 
陸軍特別攻撃隊〈第2巻〉 (文春文庫)

陸軍特別攻撃隊〈第2巻〉 (文春文庫)

 

 

著者、既に友次さんは亡くなっていると思い込んで、存命だと知って驚く。
 
^_^ もったいないことしたなぁ。亡くなってたらこの本も出てないか。
 
息子さんに無理を言った病院に押しかける著者。看護婦、無理やり起こす。
 
第2章 戦争のリアル
 
^_^ 当時の新聞の堕落ぶりは本当に憤りを覚える内容だった。もしぼくが朝日新聞などの社主になったなら、当時の新聞を常に社内に張り出し続ける。そして戒めにするだろう。
 
^_^ かの戦争において、特攻隊が大きな戦果をもたらし、戦争の違った形での終結を迎える力になったとするならば、われわれはそれでも特攻隊の戦略を否定し続けられるだろうか?犬死でなければ、やっても許される戦術なのだろうか?
 
^_^ 日本人は地位を与えられると駄目になるんだろうか?いや、負けたから無能とされているだけなのか?
 
^_^ 現場と司令部で現場が常に蔑ろにされている。そもそも、司令部の方が偉く、地位が高い必要はあるのだろうか?
 
^_^ 生きて帰ってきた佐々木伍長に対して、天皇にまで特攻を報告してしまったのだからと早く死ぬようにとあからさまに促す上層部。これは現実を歪める行為で全く官僚機構も末期症状だ。あれ?総理大臣が国会で証言してしまったからと公文書書き換えが行われたのはどこの国だっただろうか?そして自殺者が出た。変わらないのかこの国は。いや、それとも人間の、組織の、本質に根ざした欠点なのだろうか。
 
書籍「ルソン死闘記 語られざる戦場体験」

 

ルソン死闘記―語られざる戦場体験 (1973年)

ルソン死闘記―語られざる戦場体験 (1973年)

 

 

書籍「レイテ戦記」

 

レイテ戦記(三) (中公文庫)

レイテ戦記(三) (中公文庫)

 
レイテ戦記(一) (中公文庫 お 2-13)

レイテ戦記(一) (中公文庫 お 2-13)

 
レイテ戦記(二) (中公文庫)

レイテ戦記(二) (中公文庫)

 
レイテ戦記(四) (中公文庫)

レイテ戦記(四) (中公文庫)

 

 

 
^_^ 読んでいて絶望的になる。平和と言われる現代でも考えてみれば組織があるところに似たような話はいくらでもある。
現場の状況を無視した命令。中央の政治的混乱を押し付けられる現場。責任を取らない上層部。そして何より組織と上層部の保身のためだけに歪められる現実。
 
実際陸軍の特攻には戦術的に大きな問題があった。徹甲弾の開発が間に合わず、特攻しても軽金属の飛行機は爆弾よりもスピードも遅く、敵艦の看板を貫けなかった。何より飛行機はスピードを上げれば上げるほど浮いてくるものなのだから、突撃には向いていない。
 
^_^ 海軍には徹甲弾があったのだから、回して貰えばいいものを、それをしなかった。まさに海軍陸軍相争い、余力を持って米英と戦うだ。
 
第3章 2015年のインタビュー
 
ーだから特攻もやっぱり美しいとか、強調されるんですね。
「それは充分に気をつけていただいたら。同じ轍を踏まないように」p193
 
^_^ これは我々が肝に命じておかないといけないのだと思う。「死ぬ気でやれ」は日本では禁句だ。そう言って我々の国は多くの若者を殺してきたのだから。
 
第4章 特攻の実像
 
書籍「特攻の真意 大西瀧治郎はなぜ「特攻」を命じたのか」神立尚紀

 

 

 
「志願」のふりをした「強制」です。いったん、ふりをするだけ、余計に残酷だと感じます。p212
 
^_^ こんなやり方は未だに日本中でまかり通っている。実質強制の自主退学、実質強制の自己都合退職、サービス残業または組織を守るための不正に手を染めさせる。この手のやり方は上が責任を取らずに下に責任を押し付ける全く汚いやり方だと思う。組織としてやってくれ、やめてくれ、とはっきり上が言うというのは当然の責任だと思う。責任を取るために上司は高い給料を取っているのだから。こう考えるのはぼくが甘ったれだからだろうか?
 
^_^ 今、思ったのだがやはり、言葉がその行為を規定すると言う部分は大きい。「サービス残業を無賃金奴隷労働、「いじめ」を校内集団暴行とマスコミが言い換えるだけで世の中を変えるのではないだろうか?サービス残業のサービスなんてまるで自主的でいいことのようになっているのがおかしい。そういう変換ニュースサイトを作るのはどうだろう。
 
書籍「敷島隊 死への五日間」

 

 

 
特攻を命じた中島飛行長は生き残った隊員たちが志願ではなかったと言う中、志願だと言い続け航空自衛隊の空将補まで上り詰めた。
 
^_^ 戦後、人材がいなかったとは言え、人事がまかり通ったのが悲しい。
 
書籍「死にゆく二十歳の真情 神風特別攻撃隊員の手記」

 

少年飛行兵は
「12.3歳から軍隊に入ってきているからマインドコントロール洗脳がしやすいわけですよ。あまり強要、世間常識のない家から外出を不許可にして、そのかわり小遣いをやって、家に帰るのも不十分な体制にして国のために死ぬと言い続けていれば、自然とそういう人間になっちゃうんですよ」
 
^_^ 一部の小中高大の一貫教育でも似たようなことが起きているのかもしれない。スポーツ枠で寮生ともなれば余計に。例えば日大アメフト部とか、部長のために死ねに近い有様だったのではないかと。
 
書籍「神風」デニス・ウォーナー、ペギー・ウォーナー

 

ドキュメント神風 上―特攻作戦の全貌

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ドキュメント神風 下―特攻作戦の全貌

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書籍「予科練 甲十三期生 落日の栄光」高塚篤

 

予科練甲十三期生―落日の栄光 (1972年)

予科練甲十三期生―落日の栄光 (1972年)

 

 

特攻隊に選ばれたのは大学生などが予備役で召集された予科練が多くを占めた。実際の軍のエリートである海軍兵学校出身者は非常に少なかった。軍は身内のエリートではなく民間から召集した若者を特攻に利用(あえて利用と書く)したのだ。
 
書籍「つらい真実 虚構の特攻隊神話」小沢郁郎

 

つらい真実―虚構の特攻隊神話

つらい真実―虚構の特攻隊神話

 

 

 
特攻隊員の死は、「犬死に」や「英霊」「軍神」とは関係のない、厳粛な死です。日本人が忘れてはいけない、民族が記憶すべき死なのです。p229
 
^_^ 特攻隊の死を「犬死に」であったか否かで判断すると、高い戦果があればこの非人道的な作戦は肯定されるという論理に至るので決してその点で判断してはいけないと思います。あんな作戦はあってはならないのです。
しかし「厳粛な死」というキーワードで彼らの死を思考の外に追いやってしまう著者のあり方には疑問を感じます。
後半の部分、我々が記憶すべきだという点については全く賛成です。
 
^_^ 一部のイスラム過激派の行う自爆テロも大きな戦果をあげています。ならはこれは戦術的に肯定されるのか?否です。世界的に見ても特攻の問題、志願と強制の問題は、遠い昔の問題ではなく、現代の問題であり、世界の問題でもあるのだと強く思うのです。
 
書籍「語られざる特攻基地・串良 生還した「特攻」隊員の告白」

 

語られざる特攻基地・串良―生還した「特攻」隊員の告白 (文春文庫)

語られざる特攻基地・串良―生還した「特攻」隊員の告白 (文春文庫)

 

書籍「予科練 甲十三期生」

 

予科練甲十三期生―落日の栄光 (1972年)

予科練甲十三期生―落日の栄光 (1972年)

 

 

フィリピンの頃はともかく志願制の形をとっていた特攻も、沖縄戦の頃にはもはや全機特攻になり形ばかりの志願制すら放棄された様相になり、飛行機は悲惨なものしか用意されず、練習機で特攻した者すらいた。
 
整備員たちは、「こんな子供をこんなボロ飛行機で!」と泣くのです。p233
 
書籍「別冊1億人の昭和史 特別攻撃隊 日本の戦史別巻4」毎日新聞社

 

 

真の戦争の責任をこそ問われるべき連中が、戦没者の慰霊祭の際には、必ず出没し、英霊にぬかずき、涙を流し、今となって、特攻隊の勇敢さを褒めたたえ、遺族をねぎらっているあの偽善の姿である。あの図々しさには身震いさえ感じる。p235
 
書籍「空戦 飛燕対グラマン

 

空戦 飛燕対グラマン―戦闘機操縦十年の記録 (光人社NF文庫)

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書籍「つらい真実 虚構の特攻隊神話」

 

つらい真実―虚構の特攻隊神話

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書籍「修羅の翼 零戦特攻隊員の真情」

 

修羅の翼  零戦特攻隊員の真情 (光人社NF文庫)

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書籍「戦争しない国 明仁天皇メッセージ」

 

戦争をしない国 明仁天皇メッセージ

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書籍「空母零戦隊」

 

空母零戦隊 (文春文庫)

空母零戦隊 (文春文庫)

 

 

書籍「そして、メディアは日本を戦争に導いた」
日露戦争開戦前、戦争賛成の新聞は部数を3倍近くに伸ばし、戦争反対を訴えていた新聞は発禁が続いて最後には廃刊になった。戦争賛成報道が新聞を大いに儲からせたのだ。
満州事変事、大阪朝日新聞だけはこの戦争はおかしいのではないか暴略的な臭い侵略的な匂いがすると書きましたが、在郷軍人会を中心とする不買運動にやられて編集方針を変えました
満州事変に反対する「大阪朝日新聞を買い支える大衆は存在しなかったのです。
 
^_^ 結局、国民一人一人が戦争に対して反対をしてこなかった。国民一人一人に責任がなかったとは到底言えないのだ。逆に言えば、国民一人ひとりに国家が戦争に突入することを防ぐ手立てを持っていると言えるのかもしれない。
 
書籍「東条英機天皇の時代」保坂正康

 

東條英機と天皇の時代 (ちくま文庫)

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書籍「太平洋戦争、7つの謎ー官僚と軍隊と日本人」保坂正康
書籍「特攻長官大西瀧治郎

 

特攻長官 大西瀧治郎―負けて目ざめる道 (光人社NF文庫)

特攻長官 大西瀧治郎―負けて目ざめる道 (光人社NF文庫)

 

 

書籍「彗星夜襲隊 特攻拒否の異色集団」

 

彗星夜襲隊―特攻拒否の異色集団 (光人社NF文庫)

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書籍「大正っ子の太平洋戦記」

 

復刻版 大正っ子の太平洋戦記

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書籍「特攻」と日本人

 

「特攻」と日本人 (講談社現代新書)

「特攻」と日本人 (講談社現代新書)

 

 

非常事態であったから特攻戦術も止む無しと言う考え方には組しない。そもそも非常事態に備えて軍人が存在しているのであり素人同様に慌てふためいているのでは話にならない。火事を目の前に消防士が慌てふためいているようでは話にならない。ましてや一般人に最も危険な消火作業を行わせていたのだ。最大の罪は特攻の効果が薄いことを知りながら継続させてきたことだ。
 
書籍「天皇明仁の昭和史」

 

天皇明仁の昭和史

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書籍「空気と世間」

 

「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

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書籍「日本的自我」

 

日本的自我 (岩波新書 黄版 241)

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どんな社会的な運動面「当事者」より「傍観者」の方が饒舌になります。思い入れを熱く語るのは、当事者になれなかった傍観者または当事者になりたかった傍観者です。p288
 
おわりに
 
98点
読了まで2時間
 
これは過去に起こったことだが、過去の問題ではない。
志願と言う体裁をとった命令。責任を取らない上層部。真実より権力者の思惑を優先する組織。そして指導者の無能を覆い隠すための精神論。
おそらく読者は現代に起こっている様々なニュース、会社での出来事、学校やコミュニティで似たような事態を思い出すだろう。
今の日本では特攻隊は有り得ないだろうか?
否、恐らく同じことをやるだろう。緊急事態と言い訳し、それが戦術的に有効だとされればきっとやるだろう。
ぼくらはそれを許すだろうか?それを事前に考えておく必要があると思う。
現代においてもあちこちであの特攻隊を産んだ日本軍のような組織の理論が、個人に犠牲を強いている。
我々は今でも特攻隊を産んだ組織の理論がまかり通るのを許しているのだ。
特攻隊。
これは過去に起こったことだが、過去の問題ではない。