『グローバリゼーション・パラドックス 世界経済の未来を決める三つの道』書評・目次・感想・評価

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

 

 

92点
 
 もはやこれ以上のグローバリゼーションには利益がないというのは面白い視点だった。
 何よりグローバリゼーションでわずかな利益を1得るのに国内の労働市場で50の変動が起きるというのは空恐ろしいことだ。
 貿易は良い、しかし金融のグローバリゼーションは危険だ。
 一方で著者は労働者の移動の自由化にはまだ大きなフロンティアが残されているというが、5年で国に返せば問題ないというのは短絡的すぎる
 5年の間で恋愛して、結婚するかもしれないし、子供を作るかもしれない、5年で帰るとなれば雇用側に彼らを教育するメリットはあるのだろうか?
 お金や貿易品ではなく労働力とは人、そのものなのだがどうも著者にはその認識が薄い気がする。
 
【目次とメモ】
 
序章 グローバリゼーションの物語を練り直す
 
われわれは最大限のグローバリゼーションではなく、賢いグローバリゼーションを必要としているのである。ページ18
 
^_^ 国際貿易と言う点でのグローバリゼーションは良いものであるが、資金の自由な行き来を認める金融のグローバリゼーションこそが諸悪の根源なのか?

第一章 市場と国家について歴史から見たグローバリゼーション
 
市場は、頑丈な政府の制度によって支えられている時、最もよく発展し、最も効果的に富を生むのだ。市場と政府は補完的であり、角に単純化された経済学の説明にあるような、従属的な関係にはない。ページ36
 
^_^ これは政府による効果的で実効的なルールがあって初めて市場が発達しうるということだろう。GAFAの様に国家を飛び越えてしまった存在に対してはどうすればいいのだろうか?
 
福祉国家は、解放経済の裏返しとしてできた。ページ39
 
^_^ この貿易開放度が高い国ほど、国家の希望、役割も大きいという現実は今まで学んできたことと大きく異なり、そのまま受け入れがたい、受け入れがたいがどうやら事実の様だ。つまり日本がより市場を開放すればするほど日本政府は大きくならざるを得ないということだ。うーん、今まで学んできたこととは違うなぁ。
 
政府は国境線の内側で取引費用を引き下げるが、国の間の取引の摩擦の根源なのだ。ページ40
 
よく機能する市場経済はすべて、国家と市場、放任主義と介入の組み合わせである。その組み合わせは、それぞれの国の選好、国際的な地位、そして歴史的な経路に依存する。しかしどんな国も、公共部門が自主的な責任をおうことなしに発展することはできない。ページ42
 
国家は国内市場の働きに欠くことのできないものであると同時に、グローバル市場の設立に大きな障害にもなる。これから見ていくように、国家の活動は、グローバリゼーションが乗り越えなければならない取引費用の源泉である。ここにグローバリゼーションの大きいなる難問がある。国家なしではできないが、国家のせいでできないのだ!ページ42
 
^_^ 面白い。

第二章 第一次グローバリゼーションの興隆と衰退

第三章 なぜ自由貿易論は理解されないのか?
 
^_^ グローバリゼーションが進んだ今、これ以上のグローバリゼーションを進めても得られる利益は少ない(ただし、確実にある)が、その為に生じる利益を得る人と失う人の間での資本移動は大きい。その割合は利益1に対して資本移動は50である。端的に言えば自由貿易ぐ進むたびにトヨタは51儲けて、農家は50損する。それでも日本としては1儲かるからいいだろうということになっているということだ。さて、これでもこれ以上、グローバリゼーションを進めるべきだろうか?

第四章 ブレトンウッズ体制、GATT、そしてWTO 政治の世界における貿易問題

第五章 金融のグローバリゼーションと言う愚行

第六章 金融の森のハリネズミと狐
 
自己奉仕バイアス(成功は自分の手柄、失敗は状況要因のせいとする態度) ページ145
 
^_^ よく見るな。これ宗教とか。成功は神のおかげ。失敗は信心が足りない。
 
対外金融とは、いい時だけの友達のようなものだ。全く必要でないときにはそこにいるが、何か助けて欲しいときにはそこにいない。ページ151
 
^_^ これは対外金融に限らず、金貸し全般に言えることでは無いのか。
 

第七章 豊かな世界の貧しい国々
 
^_^ 正しい答えは「富裕国の貧困層」だそして、この答えに疑問の余地は無い。私の本子子によると富裕国にいる貧困層の平均所得は、貧困国にいる富裕層の平均所得の3倍以上である(各国の購買力の違いを調整すると、9400ドルと3000ドルになる)。乳児死亡率など工夫に関するその他の点についても同様である。富裕国の貧困層は、貧困国の富裕層に比べてより多くのものを持っており、はるかに望ましい状態にあるのだ。ページ164
 
^_^ 貧困国でめだつのは超富裕層。0.01%にも満たない連中がBMWに乗っているに過ぎない。そう考えると未だ富裕国の地位にとどまっている日本の貧困層である自分は世界的に見てなかなか良い場所にいるのだろう。最近の日本人の中国やその他アジアの新興国に憧れや嫉妬を持つ事はやはり大きな間違いなのだ。未だ我々日本人の多くより豊かなのは彼らのごく一部に過ぎない。しかし、彼らは目立つし、日本に観光に来ることもできる為、目につくだけだのだ。
 
第八章 熱帯地域の貿易原理主義
 
第九章 世界経済の政治的トリレンマ
 
われわれは3つの選択肢を持っている。国際的な取引費用を最小化する代わりに民主主義を制限して、グローバル経済が時々生み出す経済的・社会的な損害には無視を決め込むことができる。あるいはグローバリゼーションを制限して、民主主義的な正当性の確立を願っても良い。あるいは、国家主権を犠牲にしてグローバル民主主義に向かうこともできる。これらが、世界経済を再構築するための選択肢だ。ページ233
 
^_^ これは二番目の選択肢しかない様に思われる。民主主義よりもわずかな貿易利益を優先することが賢い選択とは思えない。1番目は現状維持だし、3番目は理想主義すぎる。我々、先進国に住む人間が世界政府でシャッフルされることを望むとは思えない。

第十章 グローバル・ガバナンスは実現できるか?望ましいのか?

第十一章 資本主義3.0をデザインする

第十二章健全なグローバリゼーション
 
世界貿易はとても自由なものになっている。その結果、わずかに残る保護主義の名残を取り除くことによって我々がいるとされる利益はほんのちっぽけなもの、それは専門家や金融紙が推測するよりもかなり小さいとなっている。ページ288
 
^_^ もはやグローバリゼーションは十分に進んでおり、今後は反動的保護主義の台頭を防ぐ為にグローバリゼーションを進めるのではなく、柔軟性をもちその維持に努めるべきということか。まぁ、これ以上、貿易自由化を進めても出てくる利益は残りカスでその摩擦は大きいだけ、労多くて益少なしということか。

終章 大人たちへのおやすみ前のおとぎ話

謝辞

訳者 あとがき


人名索引