岩手日日新聞 日日草 190715 寸評

岩手日日新聞 日日草 190715

 

 不意に30年以上前の中学時代の教科書で学んだ「ドべネックの樽(たる)」をおぼろげながら思い出した。植物の成長速度や収量は必要とされる養分などの要素のうち、最も少ない要素に影響されるとする説だ。

 ドイツの科学者リービッヒが提唱した理論。裏返せば不足要素が必要量を満たさない限り、ほかの要素をいくら増やしても収量は上がらないということ。リービッヒの最小律は、バランスの悪さや一点豪華主義に対する皮肉として引き合いに出される場合もある。

 民間機関の最近の調査によるとも無料か低額で子供に食事を提供する「子ども食堂」は全国で3700カ所を超すという。本県では13市町村に23カ所あるといい、課題と向き合い、行動を起こしている地域の働きが見て取れる。

 北上市内では6月、民間主導の子供食堂が始まった。企業進出が進む市内では多様な働き方があり、一人で食事を取る子供が少なくないという事情を知った同市の菊池洋子さんが孤食解消と居場所づくりを目的に仲間を募って市民組織「キッチンすまいるの会」を立ち上げた。

 驚くのはメンバーの幅の広さだ。飲食店や農家、産直、元教員など多様な立場の50を超す県内の個人、団体が支援に名乗り出た。ボランティアが食堂運営や食材提供、学習援助などに当たる体制を整えており、地域の子供たちを地域で支えようとする支援の広がりが頼もしい。

 飽食の時代を生きているとしてもおなかや心が満たされない人がいる限り、社会全体の幸福感はあり得ないと言えるだろう。子ども食堂の取り組みが地域社会の幸福感が高まる一歩だと信じたい。

 

 冒頭がとても上手い。聞いたことのない「ドベネックの樽(たる)」という単語を出して、それがクイズのように読み手を引き付ける。やはり新しい単語を見つければ、意味を知りたいと思うものだから。そして、文章全体に流れる暖かさも心地良い。