2019年07月17日 新聞コラムで文章修行2日目

北海道新聞 卓上四季 90点

 トムラウシ

 「山を下りて、湖のあたりでふりかえると、雲の切れ目から光の柱が立って見えた。あの光の射(さ)す場所で、神さまたちがきっと遊んでいるのだと思う。まぶしくて、健やかで、神々しい場所」。

 アイヌ語でカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)と呼ばれる山々に、作家の宮下奈都さん一家が別れを告げる場面だ。2014年春までの一年間、宮下さんは夫と子どもの家族5人で十勝管内新得町トムラウシで暮らし、その様子を「神さまたちの遊ぶ庭」(光文社)につづった。

 この中で、近所の人が「あの日はここも寒かったのよ。異常気象だった。七月なのに冬のセーターを出して着てたぐらいだから」と、夏山史上最悪とされる事故について語っている。8人が死亡した大雪山系トムラウシ山での遭難事故。惨事からきのうで10年がたった。

 犠牲者は中高年。暴風雨の中、避難小屋を出発し、雨や寒さで体温を奪われる低体温症で亡くなった。ガイドの判断ミスが原因とされ、予備日のない無理な日程も含め、多くの教訓を残している。

 残念ながら、この悲劇以降も、道内の夏山遭難は後を絶たない。事故の記憶が風化し、低体温症への警戒が薄れつつあることも懸念される。

 深田久弥が「日本百名山」に「威厳があって、超俗のおもむきがある」と記したトムラウシの人気は高い。神々の庭が突然、人間に牙をむく死地に変貌することを胸に刻みたい。2019・7・17※「カムイミンタラ」のラは小さい字

 

 

◆感想

 こういった事故の記憶を改めて呼び起こす記事の価値が高い。これをたまたま読んだ登山予定者がレインコートをリュックに詰めるかも知れないのだから。基本的にはひらがなを多くし、読みやすい体裁になっているが、警鐘をならず部分では「神々の庭が突然、人間に牙をむく死地に変貌することを胸に刻みたい。」と変貌などのやや難読な文字を使うことを選んでいる。そのことによってその部分の文章に重みがでたと思う。ぎゃくに言えば、ふだんの文章でひらがなを多くしているからこそ、ここぞという時にこのような効果が効いてくるとも言える。勉強になる一文でした。

河北新報  85

盛岡タイムス 85

茨城新聞 いばらき春秋 90

 ベトナム戦争報道で知られる写真家の石川文洋さん(81)による北海道から沖縄への徒歩旅連載「列島縦断あるき旅」が先週終わった。連載を楽しみにしていた読者も多く、けがもなく無事到着したことにほっとしている。

 昨年11月、福島県いわき市から本県入りした際に取材したのが縁で石川さんから手紙が届いた。「体調を悪くすることもなく、無事に那覇にゴール致しました。良い体験だったと思っています」と手書きの文章。

 北茨城市から水戸、土浦、取手市へと旧水戸街道を歩いているときは北茨城を含め3度お見掛けした。一人旅は心配だと思っていたが、かすみがうら市土浦市では友人と一緒に歩く姿を見て安心した。茨城の資料をいくつか手渡したが、荷物になってしまったかなと後悔した。

 連載では那覇市生まれの石川さんが沖縄に入ってから現地の苦悩を感じられる表現が度々出てきた。基地問題沖縄戦、平均寿命の心配…。

 那覇から宜野湾、沖縄市、そして海中道路へとサイクリングしたことがある。基地の広大さを肌で感じた。

 手紙には「これからも仕事を続けます」と添えられていた。

80歳を過ぎてもこれほどのバイタリティーには尊敬してしまう。自分も頑張らなければと。(大)

 

◆感想

 茨城の新聞が沖縄の問題に思いをはせるというあり方がまずとても良いと思える。そして沖縄の基地の広大さという言い方はあまり良いとは思えない。「広大」は基本的に誉め言葉だからだ。だったら普通に「途方もない広さ」とかの方がよかったのではないか。石川文洋さんが「これからも仕事を続けます」と言ったのは、沖縄も含めて、まだまだ問題が山済みで若いもんには任せられないという気持ちなのではないか。だったら我々は「尊敬してしまう」などと言っていないでもっともっと頑張らねば。

 

下野新聞 85

信濃毎日新聞 斜面 90

 「太平の眠りをさます上喜撰(じょうきせん)たった四杯で夜も眠れず」。ペリー艦隊の蒸気船と銘茶の上喜撰を掛けた有名な狂歌は、黒船に慌てる江戸市中を端的に表している。幕府は情報統制しようとしたが、狂歌を添えた瓦版が何種類も出回った。

 未知のものに対する庶民の恐怖や不安はすぐに好奇心へと変わり、見物禁止令も出された。最近の"未知の黒船"といえば米フェイスブックが発表した仮想通貨「リブラ」だろうか。大手カード会社や音楽配信会社などと一緒に来年から始めたいという。

 特長は主要通貨の預金や国債を裏付けとして価値を安定させることだ。変動が激しく使いにくい仮想通貨とは一線を画す。スマホで安く送金や貯蓄ができ、自国通貨に不安な国の人々には大助かりだろう。フェイスブックの利用者は約27億人。ドルのような存在になるかもしれない。

 先月発表されるや、政府、中央銀行などからけん制が相次いだ。資金洗浄対策や情報管理などに問題があるとの指摘である。世界の金融システムに風穴をあけそうな脅威のアイデアと映ったようだ。きょうから開く先進7か国の会議でも慌てて協議する。

 国境を超えて自由に動こうとする巨大IT企業と、通貨管理を守ろうとする国家の対立構図。たとえフェイスブックが諦めても第二、第三のリブラが登場するだろう。便利さを追い求める技術革新と規制のいたちごっこは宿命でもある。各国が協議して技術を生かす知恵を出せないものか。

 ◆感想

 新聞のコラムで仮想通貨「リブラ」について触れるとは新聞の読者層が高齢者であることを考えるとなかなか大変な決断だったと思われる。高齢者にもわかるようにしつつ、間違った解釈をなるべくさせてはいけない。これをこの短い文章で成立させているのだから、筆者は「リブラ」についてかなり勉強したのではないか。古い視点から出て読者の視点を広げようという心意気を感じる。最後に各国が協議して技術を生かす知恵をと言っている点は、未だに技術に対して国家がハンドリングできるし、合意できると思っているのはご愛敬。

 

愛媛新聞 85

佐賀新聞 有明抄 90

 「何のできるとやろうね」。そんな何げない会話から高校生の市場調査は始まった。学校のそばの農地が埋め立てられていく。やがて大型店が進出。買い物する店も少なく、活気が失われつつあった町にとっては朗報だが、気になったのは地元小売店への影響だった。

 先日あった高校生の商業研究発表県大会。杵島商高による発表は驚きの内容だった。6月にオープンした24時間営業の大型店。その影響を検証しようと大型店と隣接するコンビニ双方の車の来場台数について10日間に及ぶ膨大なデータを収集、分析したのである。

 一時間ごとに台数をチェックする根気のいる作業。同時に地元商店へのインタビューも実施。今や多くの町にとって大型店との共存と地域の活性化は普遍的なテーマ。そこにスポットを当てたのだった。

 一方、最優秀賞に輝いた鳥栖商高は、佐賀藩で海外貿易の主力となった特産品「櫨蝋はぜろう」に着目。櫨蝋は和ろうそくの原料で趣のある炎や香りが特徴。これを現代に生かしたアロマキャンドルの試作につなげた。過去に全国大会で優勝した経験もある同校。今回、県大会10連覇を成し遂げた。

 商品の強みと弱みを分析するマーケティングの導入や、動画を活用したプレゼンテーションなどそれぞれの工夫が光った研究発表。実践的な学びを通して社会に羽ばたいてほしい。

 

 ◆感想

 冒頭をセリフで始めるのはコラムの常套手段。やはり目を引く。日頃、学生の活動はどうしても高校野球を始めとする運動系の活動にスポットが当たりやすいので、文科系活動をこうして紹介するのはよい傾向だと思う。ただ最後のセンテンスはどうしても上から目線という印象があるので、もう少し考えた方がよいと思う。

 

宮崎日日新聞 くろしお 90

   バス運転士

 文芸、宗教など幅広い分野に金言を残した亀井勝一郎氏の職業についての見解だ。「あらゆる職業を通じて私の、最も尊敬しているのは、その職業における熟達者である」。

 職業に上下のランキングはなく、いかなる職業であっても名人クラスの腕前、技術を持つ人が偉いとする考えである。さらに熟達したものとは「自己の能力について、絶望の経験を繰り返してきた人」だと定義している(「亀井勝一郎人生論集<8>断想」より)。

 車の運転が苦手で、めったにハンドルを握らない筆者が身近に接する職業で、尊敬しているのがバスの運転士だ。大きな箱のような車体を自在に操り、他の車や歩行者に気を配り、社内の乗客の安全に配慮し、分刻みの運航時刻を守る。

 昨年5月、本紙県北面の連載企画「県北の達人」で宮崎交通延岡営業所のバスの運転士を紹介していた。担当するのはJR延岡駅から祝子川温泉美人の湯を結ぶ秘境路線。特に秘境の度合いが増す祝子川沿い渓谷の約9キロ区間はまさに神業の運転技術を必要とする。

 そんな難易度の高い道を走らせる日はまだ先だろうが同社で初めて高校新卒採用のバス運転士になった斎藤祐介さんの目標は「宮交で一番の運転士になりたい」。2016年度開始の高校新卒者を対象とした「育成プログラム」で入社した。

 なり手不足というが子どもにとって運転士は結構人気のある仕事。クラレ調査の男の子(小6)が就きたい職業で2018年は19位だった。熟練への道のりは秘境路線並みに険しかろうがぜひ「一番の運転士」になってもらいたい。頑張れ。

 

◆感想 

 職業に貴賤なしという考えはとても好感がもてる。世の中はいつの間にか、お金を多く貰える仕事が尊い仕事のようになっているが、そんな仕事は大抵無くても世の中は回る。大好きでやっている仕事や、絶対になくてはならない仕事(ゴミ収集など)こそが尊い。あれ、文章の感想は出てこないや。