『暴力の人類史 下』感想・評価
【目次】
第7章 権利革命
「子殺しは、心の無慈悲さから来ているのではなく、むしろ生活の無慈悲さから来ているのだ」エドワード・テイラー ページ78
児童教育運動は、人間の発達への科学的なアプローチを目指し、年配の主婦たちによる適当な教えと迷信に変わって、子育て専門家による適当な教えと迷信が広まった。ページ107
^_^ 皮肉が効いてるなぁ。
要約
体罰に関する認識の変化はポジティブだが、一方で子供の育ち方は親次第であるという誤った認識が広まり、親は24時間子育てマシーンになることを要求されるようになった。養子の研究では養子は養子先の兄弟よりも、生物学的兄弟により近いものになる。つまり、育ての親より生みの親の影響が強いこともわかっている。
^_^ 今の日本の子供のやることはみんな親の責任みたいな風潮は大きな間違いだと言える。馬鹿馬鹿しい。
作家のワーウィック・ケアンズの計算によると、もしあなたが見知らぬ他人に自分の子供を誘拐されて一晩拘束されることを望むなら、あなたは子供を外側に付き添いなしで放置したまま750000年の間待たなくてはならない。ページ128
^_^ まぁ、誘拐は離婚した親権を奪われた親や家出が多いからね。まぁ75万年か。誘拐は顔見知りが多いのかも。
子供を学校に送って行く途中の親の車にひかれる子供の数は、それ以外の交通事故に会う子供の2倍以上に上っている。したがって、子供を誘拐犯に殺されないようにするために車で学校へ送っていく親が多ければ多いほど、子供の多くが死ぬのである。ページ129
^_^ やはり物事には収穫逓減の視点が必要だろう。何事もゼロにしようとすれば費用対効果は大きく悪化する。
ストレートの男性はゲイの仲間に対してこう思うのではないだろうか「すばらしい!これで俺の女の取り分が増える!」と。この理論でいけば女性の同性愛は考えられる限りの最も憎むべき犯罪とみなされるはずだろう。なぜならそれは、配偶プールから2人の女性を同時に奪い去ってしまうからだ。ところが、ホモ嫌悪は歴史を通じてずっとレズ嫌悪をより顕著だったのだ。多くの法体系は男性の同性愛だけを犯罪としているが、女性の同性愛だけを犯罪としている法体系は1つもなく、男性同性愛者に対する憎悪犯罪は女性同性愛者に対する憎悪犯罪に比べて、約5倍も多い。ページ131
ヒトラーとその副審たちは菜食主義者を自称していた。しかしそれは動物園への哀れみからと言うよりも、異常なまでの純血性の追求からであり大地と再びつながろうとする汎神論的な切望からであり、ユダヤ教の人間中心主義と肉食の儀式に対する反発からであった。人間はここまで道徳観を使い分けられるものがなのかと感心するが、後は言語道断の人体実験を行っておきながら、その一方で、それまでヨーロッパにあったどんな方よりも厳格な動物研究保護法を制定した。それらの方では、農場や映画のセット等において動物に人道的な扱いをすることが定められ、レストランでは調理をする前に性の麻痺させること、ロブスターを想起させることが義務付けられた。動物の権利の歴史にこの奇妙な一生が指図挟まれて以来、菜食主義者の提唱者は自分たちの昔からの主張を引っ込めざるをえなくなった。肉食は人を攻撃的にし、肉食の節制は人を平和的にする、と言う言い分はもはや通用しなくなったのだ。ページ157
^_^ ナチスドイツってこういうエピソードに事欠かないな。
^_^ 確かにカルフォルニアって先進的な法律を作りがち。
参考書籍
『僕らはそれでも肉を食うー人と動物の奇妙な関係』
- 作者: ハロルドハーツォグ,Harold A. Herzog Jr.,山形浩生,守岡桜,森本正史
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第8章 内なる悪魔
心理学者のリチャード・トレンブレイは、人間の障害の各段階での暴力発生率を測定して、最も暴力的な段階が青年期ではなく、若年成人期ですらなく、そこに言われている通りの「魔の2歳児」の頃であることを発見している。よちよち歩きを始めた頃の典型的な幼児は、蹴ったり、噛み付いたり、叩いたり、喧嘩をしたりするが、そうした物理的攻撃の発生率は幼児期が経過するにつれて着実に下がっていく。これについてトレンブレイはこう述べている。「赤ん坊同士は殺し合いをしないが、それは彼らの手に届くところにナイフや銃が置かれていないからだ。われわれは過去30年にわたって子供が一体どうやって攻撃することを学習するのかと言う問題の答えを見つけようとしてきた。だが俺の問いは立て方が間違っているのだ。正しくは子供はどうやって攻撃しないことを学習するのかと問うべきなのである」ページ197
^_^ 人間は最も原始的な状態において、最も暴力的なのか。これは面白い。
『邪悪な夢:異常犯罪の心理学』
『凶暴な娯楽:暴力エンターテイメントの文化史』
『人間の本性を考える』
人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)
- 作者: スティーブン・ピンカー,山下篤子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2004/08/31
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『悪』ロイ・バウマイスター
『行為と演技』
行為と演技―日常生活における自己呈示 (ゴッフマンの社会学 1)
- 作者: E.ゴッフマン,石黒毅
- 出版社/メーカー: 誠信書房
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『なぜ人はあやまちを認めないのか』
- 作者: エリオット・アロンソン,キャロル・タヴリス,戸根由紀恵
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2009/03/20
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「簡単に勝てるとどれほど確信していても、敵方もやはり自分のほうに勝機があると思っていなければ戦争は起こらないと言うことを、決して忘れてはならない」ウィンストン・チャーチル ページ248
愚行の世界史(上) - トロイアからベトナムまで (中公文庫)
- 作者: バーバラ・W・タックマン,大社淑子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2009/12/22
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第一次世界大戦が始まる数週間前には、イギリスとフランスとロシアの指揮官たちも、相対するドイツとオーストリア=ハンガリーとオスマントルコの指揮官たちも、全員この戦争が敵の大敗北で終わって、自分たちの兵士は無事にクリスマスは我が家で過ごせるものと予測していた。どちらの人影でも熱にうかされた大勢の青年が我が家を出て軍隊に入ったが、それは彼らの国の為なら喜んで小竹とする利他主義者だったからではなく、自分が死ぬとは考えてもいなかったからである。もちろんそんなわけはなく、実際、多くの若者が死んだ。ページ250
第9章 善なる天使
抜粋要約
人はネガティブな感情が生じるとそれに対する引き波の感情、ニュートラルに戻すための感情が生じる。
危険な行為の後の高揚感のようなものである。
人はその危険な行為を繰り返していくうちに慣れが生じ、ネガティブな感情にすぐ対処できるようになり、ニュートラルに戻すためのポジティブな感情が目立ち始める。
その結果、ネガティブなはずの行為から人は喜びを感じるようになる。
それは大人の楽しみの多くに見られる。激辛チリペッパー、臭いチーズ、辛口ワイン、サウナ、スカイダイビング、カーレース、ロッククライミングなどである。
そして、サディズムにもその傾向が見られる。
人は当初は他人の苦しみに嫌悪を覚えるが、やがてそのネガティブを埋めるニュートラルに戻るためのポジティブが他人の苦しみに対する慣れから、力を持ち始め、やがては人を苦しめることに喜びを感じるようになる。
^_^ この仮説は完全とは言い難いが、一種の理があると感じる。ここでボクが思い出すのはいわゆるNTR。寝取られ属性というやつだ。
なぜ、大切な人を他人に寝取られるというネガテイブな現象で喜びを感じることができる人がいるのかという疑問の答えがここにあるように思える。つまり、NTRには心理学的なブーストがかかっていると考えられる。
さらに NTRが特殊なのは、NTRの場合は進化生物学的にも自分のパートナーが寝取られたら強烈な性欲を感じてパートナーにのし掛かったり、寝とった者のパートナーを寝取り返すような者の遺伝子の方が次の世代につながりやすいので、当然、寝取られた時には性的な興奮を感じたものこそ、子孫を残し得たと考えられる。
つまり、NTRは心理学的にも、進化生物学的にも、喜びを感じうるというわけである。
なかなか闇深い。
第10章 天使の翼に乗って
訳者あとがき
参考文献
注
索引
そう遠くない未来において、その昔、労働という残酷な制度があったのだと語られる時代が来るだろう。
啓蒙主義が広まってからは人はあらゆる苦役から解放されてきた。それは奴隷労働であり、児童労働であり、制限なき長時間労働。
プロテスタントでは労働は善とされているし、東洋の思想でも、労働を良きものとして考える思想は根強い。
しかし、今、ここで自分の胸に手を当てて自分の本心を聞いてみて欲しい。
働きたいか?と。
あなたの本心は働きたくないと言っていないだろうか?
働きたいと思っている人でも同じ給料であれば時間を短くしたいと思っていないだろうか?
人は啓蒙主義が広まって以降長い間、あらゆる苦悩から解放されてきた。
奴隷、虐待、拷問、戦争、あらゆるものが退けられ。または退けようと努力してきた。
次は労働がその対象にならないとあなたは言えるだろうか?