『帳簿の世界史』

帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)

 

帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)

帳簿の世界史 (文春文庫 S 22-1)

 

 

第4章 新プラトン主義に敗れたメディチ家

【要約】

メディチ家の隆盛を作りあげたコジモは実務を軽視する新プラトン主義を振興したことで、後の世代が屋台骨である銀行経営を顧みない文化をメディチ家に芽生えさせ、それが後のメディチ家フィレンツェの黄昏をまねく結果となった。‬

 

^_^ 自らも学び振興した新プラトン主義が築き上げたメディチ家を崩壊させるとはなんと皮肉なことか。

 

‪第5章「太陽の沈まぬ国」が沈むとき‬
【要約】‪

日の沈まぬ大帝国スペインであったが広大な植民地経営は収益よりもコストが上回るという杜撰さで、帝国の体力を削り続けた。フェリペ二世は書類王という二つ名を持つほどの実務家であったが結局、スペインに会計を根付かせることはできなかった。‬

 

^_^ 会計の名著『ムスマ』が2版で終わり、『宮廷人』などという妄想的貴族の本が約50版も版を重ねる。良い本が売れず、くだらない本がベストセラーになるのは16世紀も21世紀も変わらないもんだなぁ。

 

^_^ むむ?日本って今、相当やばいのではないだろうか?バランスシートが崩壊して維持できる国家があるのか?

 

第5章 オランダ黄金時代を作った複式簿記

【要約】
オランダは複式簿記を教える学校を多く設立し、商人だけでなく統治者も複式簿記を理解して活用し富み栄えた。しかし、それを維持することは結局叶わなかった。軍事的強国圧力の中で共和制の存続するため、政治的要因がそれを許さなかった。

 

低地のオランダでは、堤防が決壊し浸水したら国土がなくなってしまう。したがってよき水管理、それを支える良き自治組織は、生死に関わる問題だった。オランダの人々が会計と責任をあれほど真剣に受け止めたのは、ここに1つの原因がある。オランダと言う国は、堤防、排水システムと運河、水門が機能しなかったら存続できないのであり、これを管理するのが各地の地方自治組織である水管理委員会だった。VOCが世界各地に展開する拠点同様、水管理委員会の委員長は地元民に直接的な責任を負う。この責任は重い。水管理委員会の資金が適切に運用されず、工事が適切に行われなかったら、その地域が水浸しになり、多くの人が命を失うのである。158

^_^ オランダの強みがここにあると言える。環境が自治を強化し、オランダの世界進出の力となったというわけだ。つまり環境がオランダを鍛え、オランダの世界進出の力となった。

 

^_^ この複式簿記に該当するとのはなんだろう。ぼくはランダム化比較試験ではないかと思う。ある教育方法が良いとされると大したエビデンスもなく広範に実施される。例えば英語の民間試験活用などである。これを実際に一部で導入し、それ以外の地域と比較して初めて、全国的に導入する価値があると言えるはずである。他にもエビデンスなき直感と感情による改革が行われている。

 

第6章 ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問

【要約】
コルベールという才気ある会計人は自らフランス財政を把握し、ルイ14世に小さな帳簿を持ち歩かせるほどにフランスに会計を浸透させた。しかしコルベールの死後、ルイ14世は会計を疎み、やがてフランス王政は革命という破産を迎える。

 

^_^ 会計は力を持つが、必ずそれはないがしろにされ、やがて破綻するものなのだろう。

 

第7章 英国首相ウォルポールの裏金工作‬

【要約】
‪フランスがミシシッピバブルによる破綻から立ち直れずに一世紀を過ごした一方、イギリスは南海泡沫事件から見事立ち直った。そこには首相ウォルポールの手腕があった。彼は南海会社を国費で救い金融を守った。しかし倫理的非難も激しかった。‬

 

^_^ いつの時代も大きくて潰せない組織があり、金融をおもちゃにして国に尻拭いをさせるという輩は存在している。しかし倫理を優先して、破綻を受け入れれば国の経済も道連れになる。結果、国費で救うことになる。現実と倫理のジレンマは現代社会も未だに抱えている。
しかし経済を救うにしても、不正は暴かれ、責任は取られなければならないが、それがおこわれた形跡はいつも見当たらない。
我々は我々のチップを勝手に賭博場に持ち込んで、勝てば自分の利益に負ければ我々にツケを押し付けてくる輩をこれからも野放しにしてもいいのだろうか?


第8章 名門ウェッジウッドを生んだ帳簿分析

【要約】
現在も存続する名門ウェッジウッド。その創始者は几帳面な会計に取り組み工業生産の会計にも取り組み、さらにマーケティングにも反映させた。またベンサムは借方貸方のバランスを取る会計のやり方を快楽と苦痛に用いて「快楽計算」行った。

【感想】
ベンサム功利主義が会計の型をベースにしていると読んでハッとした。まさに貸方借方の形で人間の幸福を計算している。またウェッジウッドが工場経営に会計を活用して成功した話も興味深い。今でも工業簿記は別の科目として学ぶ。

第9章 フランス絶対王政を丸裸にした財務長官

【要約】
ルイ16世から財務長官に任命されたスイスの銀行家ネッケルは言われなき中傷から身を守るためにフランスの国家としての年度会計を公表した。しかし、それは王家とフランスの秘密を暴き革命に数字的な裏付けを与える行為だった。

【感想】
ネッケルの公表した会計からは意図的に軍事費が削除されていた。軍事費は特別会計であるというのがその根拠だった。この手のやり口は現在の民主国家の運営においてもよく利用されている。会計は政治にまみれて正確さが失われる。

第10章 会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち

【要約】
アメリカの建国の父たちはみな帳簿をつける能力を持ち実践していた。アメリカは独立後、戦争をして独立を守り、新しい国家として立ち上がるために資金を必要とした。その資金を借りるためには正確な会計が必要とされた。

 

【感想】
アメリカの建国の父たちが帳簿をつけたことが彼らの生き様を現代に伝えている。何しろ帳簿は真実を書くことに意味があるし、さらにそれが金銭に関することであれば生々しいものになる。馬のように奴隷の母子を買ったことも。

 

第11章 鉄道が生んだ公認会計士

【まとめ】
鉄道の隆盛は新しい会計基準を必要した。資金が莫大であるだけでなく、設備が広汎に及び、さらにそれらは磨耗し、価値を減らしていく。しかし鉄道を始め企業は会計の公開を拒み続ける。そんな中、公式な付託を受けた公認会計士が誕生した。
【感想】
公認会計士は当時は真実を明らかにする探偵だったのかも知れないが、現代の会計不正事件の数々を見れば、もはや機能していないように見える。将来的にはブロックチェーンなどを活用することで会計の透明性を確保できる時代が来るのだろうか?

第12章『クリスマス・キャロル』に描かれた会計の二面性

ソローは、「人間は思い違いから労働している」と警告する。「なぜ生まれた時から自分の墓を掘らなければならないのか」と。(中略)

 

ソローはマサチューセッツ州コンコードのウォルデンの湖畔で、2年余森の中で生活した。この時、精神の純化に到達するための1つの方法として、生活に欠かせないものとそうでないものを峻別する。そして単式簿記で家計簿をつけた。支出は鋤や種子など畑のための費用と日用品、収入は畑でとれた農作物を売っていた代金である。計算すると、儲けは13.34ドルになった。322

第13章 大恐慌リーマン・ショックはなぜ防げなかったのか

結果的に、彼を含めてアンダーセンの社員は誰と1人として刑務所送りになっていない。アメリカ史上最悪・最大の不正会計事件でありながら、それを担当して監査法人の社員は罪に問われなかったわけである。354 

^_^ これで監査法人を信用しろと言う方がおかしい。全く新しいシステムが必要なのだろう。それがテクノロジーによるものなのか否かはわからないが、このままではマズイことぐらいは僕にもわかる。

 

89点

 正直、期待していなかったがとても面白く読めた。この本から感じたのは破綻は資本主義そのものに組み込まれた排除できない要素なのではないかということ。

 つまり資本主義世界に生きているならばいずれ破滅的な決算が訪れると覚悟して生きなければならないということだろう。

 そして、同時に資本主義は何度でも立ち上がるということ。

 もう一つ、考えたのは簿記・会計は大きな力となること、それが浸透するには時間が掛かり、今でも世界はそれを完全には実践できていないということ。

 では、現在、18世紀、19世紀の簿記に当たるのは何かと考えるとやはりそれは、ランダム化比較試験ではないだろうか。そこまで厳密でなくても、政策の立案にエビデンスを求める時代がもうそろそろ来てもいいのではないだろうか?

 交通安全のためと称し、電信柱に「飛び出し注意」と書いた看板を括り付けて、それをよけるために歩行者が車道に出なければ歩けない、そんな無駄な政策、執政者の自己満足でしかない政策がまかり通っているのはいつまで続くのかと憂鬱になる。

 東京オリンピックも、日本橋の改修も、ふるさと納税も、食品の消費税8%据え置きも、実際の費用対効果を調べて、時には小さな規模でやってみてから、実施すべきだっのにどう考えてもそうではなく、行き当たりばったり。

 少子高齢化が進み、財政がひっ迫している日本こそ、政策にエビデンスを浸透させる先進国になってもらいたいと思うのです。

 国民のぼぼ全員が九九ができるほど教育水準は高いんだから、どうにかならないだろうか。