『累犯障害者』著 山本譲司
【評価】95点
【目次】
序章 安住の地は刑務所だった−下関駅放火事件
第1章 レッサーパンダ帽の男−浅草・女子短大生刺殺事件
第2章 障害者を食い物にする人々−宇都宮・誤認逮捕事件
第3章 生きがいはセックス−売春する知的障害女性たち
第4章 ある知的障害女性の青春−障害者を利用する偽装結婚の実態
第5章 多重人格と言うおり−性的虐待がうむ情緒障害者たち
第6章 閉鎖社会の犯罪−浜松・ろうあ者不倫殺人事件
第7章 第7章 ろうあ者暴力団−「仲間」を狙い撃ちする障害者たち
終章 行く行き着く先はどこに−福祉・刑務所・裁判所の問題点
あとがき
文庫版あとがき
解説 江川紹子
【感想】
あっという間に読み終えてしまった。
累犯障害者というのは度々、犯罪を起こしたり、犯罪に巻き込まれてしまう障害者のこと。
著者は元国会議員で秘書給与の流用で刑務所に1年半ほど入っていた人物。
国会議員という法を作る立場から獄中という法を執行される立場を経験してきたある意味、貴重な人物と言えます。
その彼が語る日本の問題点は刑務所はもちろん、福祉、裁判制度、警察制度まで多岐にわたり、同時に複合的で、どれか一つでは解決できないほど、複雑に絡み合っていました。
ぼくも含めて人間というのはその発言内容そのものよりも、誰の発言かを重視してしまう傾向があります。
著者は元受刑者、粗雑に言えば前科者です。その時点で彼の主張は聞くことなく、彼の意見には価値がないと判断するのは簡単です。
ネットでよく言われる「お前が言うな」です。
しかし、この短絡的な考え方はとても大きな損失を生みます。
社会的にも、そして個人的にも。
前科者だから、低学歴だから、外国人だから、左翼だから、右翼だから、男だから、女だから、子供だから、年寄りだから、と発言者にレッテルを張ってその考えを排除してしまえば、社会の視点は偏り、いわゆる強者による強者の議論に終始してしまいます。
その結果の官僚主義であり、政治、政策の硬直化です。
泥棒対策は東大卒よりも元泥棒に聞くべきですし、引きこもり対策には20年引き篭もったベテラン引きこもりの意見を聞くべきです。
児童政策に子供の意見を聞かないのは愚かですし、障害者政策に障害者の意見を聞かないのは愚かです。
全ての人が他の誰かとは違うのですから、社会に対して、他の誰かとは違う貴重な意見を述べることができるはずです。
ですからどんなことでもこの意見に関してこの人の意見は聞く価値があるのかと、一旦立ち止まって考えてみる必要があるのです。
例えそれがエリートでも、犯罪者でも、です。
現代社会ではそれがうまくできていません。ネットでは元犯罪者がとか、不倫してたくせにとか、議論とは違うところで発言を封じようとするレッテル貼りが横行していますし、テレビのワイドショーではどんなことにでもタレントや落語家、お笑い芸人の意見が無責任に放送されて、ただテレビでよくみる人というだけで、専門家でも、経験者でもない彼らの意見が大きな力を持ったりしています。
本来、落語家は落語に関して話すとき、タレントは芸能界について話すときには、その発言には聞く価値はありますが、門外漢のことに関してはその発言には大した価値はないはずなのにです。
その点、この本の著者の意見は国会議員から逮捕、服役という経験から言っても、とても貴重で価値のあるものと言えるのです。
文章もやや硬いというか、古いというか、という部分もありますが、基本的には読みやすいのでおすすめです。
社会問題は問題を多くの人が認識するところから解決の一歩は始まります。その点でも多くの人に読んでもらいたい一冊です。