『暴力の人類史 上』目次・感想・評価

暴力の人類史 上

 

暴力の人類史 上

暴力の人類史 上

 

 

はじめに

第1章 異国

コロッセオで見世物として死に至らしめられた人は50万人にも及ぶ。

 

今日のイギリス王室は無作法から不倫まで、いろいろ悪口を言われているが、ただの1回も親戚の誰かの首をはねたり、敵の誰かの腸をとって八つ裂きにしたことがない事は褒めるべきかもしれない。ページ58

 

^_^ もう笑うしかない。

 

要約
人類の歴史は過去に遡るほど残虐性に満ちていた。少なくとも過去に遡るほど人々は残虐さに寛容だった。

 

 


第2章 平和化のプロセス

先史時代には、カニバリズムの風習は人間の進化にも影響及ぼすほど一般的だった可能性もある。人のゲノムには、人肉を食べることによるプリオン疾患への感染を防御すると考えられる遺伝子が含まれているのだ。ページ105

 

^_^ 人類の正義はどれだけ変わってきたのだろうとある意味、震撼する。現代、概ね問題ないとされているもの(野生動物を取って食べること、家畜を養い食べること、流血を伴う格闘技)もいずれ野蛮な行為として廃れていくのだろうか。

 

20世紀には2つの世界大戦が起きたが、最も軍事的損害の大きかったのはドイツと日本、ロシア/ソビエト連邦であり、ロシア/ソ連ではそれ以外にも内戦など軍事的衝突が度々あった。この三国の戦争による年間死亡率は、それぞれ100,000人あたり144人、27人、135人だった。ページ115

 

^_^ こうしてみると、日本の死亡率は他の2国に比べると低い。やはり本土が戦場になったのか?という点が大きいのだろう。沖縄の死亡率を調べてみたい。

 

沖縄戦死者
県民42万のうち、12万2千。(大阪書籍)

約29%である。
10万人あたり2.9万人。
これはもう我々本土の人間は沖縄に頭を垂れるしかない。

 

中央集権化した社会の方が、女性が戦闘で(連れ去られるのでなく)殺されたり、奴隷制が敷かれたり、人間がいけにえにされたりする傾向が強いことを示した。ページ124

 

^_^ 女性限定でみれば中央集権制は狩猟採集よりも良いとは言えない?

 

複雑な社会の方が冒涜的行為や性的逸脱、配信行為、魔術といった犠牲者のない行為を犯罪とみなし違反したもの拷問や、使節団、どれか、処刑などの残忍な刑罰を与える傾向が強いことを示した。ページ124

 

^_^ 狩猟採集民の中で微罪で殺していたら、貴重な戦力である身内がいなくなってしまうというのもあるのだろう。

 

要約
中央集権制というリヴァイアサンがしかれることによって戦争や殺人による死亡率が5分の1に減少する。狩猟採集民の頃の方が栄養状態はよかったが、死亡率は劇的に下がった。一方で指導者が残忍な行為を行うようになる。

 

第3章 文明化のプロセス

 

上流及び中流階級は司法制度によって正義を追求しようとするのに対し、下層階級は暴力の専門家が「自力救済」と呼ぶ方法を用いることにある。ページ168 

 

^_^ これを読んで思いついたのだが、インターネット上で吊るし上げや身元バラシなどの私刑が蔓延するのは、そこにリヴァイアサンがいないからではないか。信頼できる権力が不正を正してくれると思えないから彼らは自らの空間、インターネットでは「自力救済」を行うのではないか。

 

^_^ 死刑を廃止することで、被害者の家族が加害者の家族を襲うというようなことは起きるのだろうか?

 

アメリカ人は、銃器を振り回すのが好きなだけではない。すべての殺人件数から銃器によるものを差し引いて、縄やナイフ、それに鉛管、レンチ、ろうそく立てなどの鈍器を使った殺人だけに限っても、アメリカの殺人事件数はヨーロッパより高いのである。ページ183

 

^_^ これは驚いた。アイツら野蛮だなw

 

完全な生殖の失敗に向かっていることが明らかになれば、いかなる生物も、何らかの形で現在の生き方を改善するためにしばしば私の危険を犯しても努めなければならないページ202

 

^_^ これは男の悲しさだよなぁ。

 

ボストンの低所得層出身の非行少年1000人を45年にわたって追跡調査した有名な研究によれば、その後の人生で犯罪を犯すかどうかを左右する要因の2つ見つかった。1つは安定した職に就くこと、もう一つは愛する女性と結婚して家族を養うことだった。結婚による影響はかなりのものだ。独身者の4分の3は成人後、さらに犯罪を犯すようになるが、結婚したものでは3分の1に過ぎなかった。この違いだけでは結婚によって犯罪から遠ざかったのか、犯罪の常習者は結婚することが少ないのかどちらかわからない。ページ204

 

^_^ 嫁をもらって丸くなるってあるよなぁ。

 

犯罪学者の間では、失業率と暴力犯罪の間には明確な相関関係が存在しない事は長く知られている(失業率と窃盗犯罪には何らかの相関関係がある)ページ227

 

^_^ 暇で金がなくても、ものは盗んでも、人は殺さないってことか。

 

要約
西洋で60年代に犯罪が増えた理由はいくつもの要因が重なったものと考えられる。ベビーブーマーである若者の増加など。しかし、一つの要因には特定できない。今はあらゆる本能を抑える文明化から自ら判断してコントロールして本能を解放する事態になったのかもしれない。

 

第4章 人道主義革命

 

科学的精神の影響を受け、自ら魔術仮説の真偽のほどを見極めようとした訳人もいた。ミラノのある判事は自分の家の犬を殺して召使いのせいにし、拷問にかけたところ、召使いは自分がやったと自白した。しかもさらに拷問にかけられることを恐れて、自白を撤回することも拒んだ(今日ではこうした事件は、被験者保護の観点からゆるされないものだが)。判事はこの結果を受けて自分の法廷で拷問を行うことをやめた。ページ261

 

^_^ この判事は当時としては先進的だが、とても先進的だが、今日の価値観では啓蒙主義的とは言えない。なんとも言えない存在だ。

 

80年代に流行したバンパーステッカー「そのようなことも起こる(=ついていないこともあるさ)」というのは、「汝の隣人を愛せよ」や「すべての人間は生まれながらに平等である」に匹敵する、大いなる道徳的発展の結果得られた原理なのである。ページ263

 

^_^ 自分の不幸を他人による呪いや魔術と考えなくなったと言うこと自体が1つの道徳的発展と言うことなのだろう。

 

16世紀のパリでは、ステージ上で3カッキンに入れた猫炎の中におろして燃やすのが大衆娯楽の1つだった。ページ273

 

これは今日もなお動物愛護運動の基本理念となっている。「動物にも理性はあるか、動物にも話すことができるか、などと言うのは問題ではない。動物も苦しむかということが問題なのだ」。ページ279 ジェレミーベンサム 

 

だが、資産の差し押さえも暴力の1種だとペインは言う。「ジョンが食料品をつけて買い、その後支払いを拒否したとしても、彼は暴力を使っていない。だがもし食料品店の店主が訴訟を起こし、警察がジョンの車押収するか銀行口座を差し押さえれば、実力行使を始めたのは、店主と警察と言うことになる」。ページ291 

 

^_^ むむむ、判断が難しい。

 

私の見るところ、この本を始めとする印刷物の増加と識字能力の向上こそ、人道主義革命のきっかけとなった最大の外生的要因ではないかと思われる。世界は五感を通して捉えられ、情報は唯一のコンテンツプロバイダーである教会から与えられるだけだった、それまでの小さな村と言う部族社会から、様々な人や場所、多様な文化やアイディアが次々に通り過ぎる走馬灯のような体験へ。こうした精神の拡大が、人々の感情や信念に人道主義的要素を着込んだのだ。ページ320

 

^_^ やや手前味噌的だから読書好きとしては賛成したい内容だと思う。

 

第5章 長い平和

 

^_^ 著者は戦争による死者数をその当時の人口比率で修正しようとしているが、すんなり納得できない。人口10億の時代に1億殺されることと、人口100億の時代に10億人殺されることが同じ重さだとは思えない。やはり10億は10倍、悲劇ではないかと思う。

 

データに照らし合わせた結果、大部分の仮説は否定された。その1つは、言語が共通だからといって戦争になりにくいわけではないこと(大部分の内戦、19世紀の南米諸国間の戦争が良い例だ)。エスペラント(「希望する人」の1)の何託された希望も、もはやこれまでだ。経済指標もほとんどあてにならない。例えば富める国が貧しい国を攻撃すると言う(またはその逆の(閉じるパターンが系統的に見られるわけではない。また一般に軍拡競争が戦争を誘発することもなかった。
それでも検証に耐えた一般論が、いくつかあった。例えば、長期間安定した政府を持つ国では戦争が起きにくいこと。異なる民族同士がドイツ国内で内戦を起こすより、国境を挟んで戦争する場合の方が多いこと。また、一般には戦争は隣国を攻めることが多いが、広大な領土も大国にとってはほぼ全ての国の隣国となるためどの国とも戦争になる可能性が高い。さらに、ある特定の文化(特に軍国主義イデオロギー」を持つ国は戦争を起こしやすい、などである。ページ368

 

^_^ これを中国に当てはめてみるとどうか?大国であること、これで世界中のどことも戦争が起こり得る。2つ目、長期間安定した政府を持つこの点では中国は戦争を起こしにくい国と考えられる。ただすべての戦争を同一に考えると言う事は正しい結論得るとは思えない、大国がどのように行動するかと言う戦争論が対中国の将来を予想しうるだろう。そう考えるとアメリカが、ロシアが、過去におけるイギリスなどのパターンが参考になるのかもしれない。

 

ポワソン過程では事象とは連続的にランダムに、他の事象とは独立して発生する。落雷で言えば、空の上ジュピターがサイコロを振って1のぞろ目が出たら雷を落とし、次の瞬間にはさっきの事は全く忘れて再びサイコロを振るようなものだ。先に見たように、ポワソン過程では、事象と事象の感覚は、指数関数的に分布する。短い間隔は数多くあるが、間隔が長くなればなるほどその数は少なくなる。つまりランダムに起こる事象は、クラスタ(集団、群)をなしているように見えるのだ(均等に感覚を開けるには、ランダムでない過程が必要になる)。ページ370

 

^_^ こういうの株式投資とかに流用できないのかな。

 

ウェーバーの法則とは、観察者が刺激の強さの増加を知覚するには、増分が最も刺激の強さに対して一定の比率になっていなければならないと言うものだ。(10個の電球のついた部屋で11個目をつけると前より明るくなったことに気づくが、100個の電球のついた部屋で101個目をつけても気づかない。明るさの変化が知覚されるには電球を10個増やさなければならない)。リチャードソンは、この法則が人命の損失にも当てはまることを発見し、こう書いている。「平時にイギリスの潜水艦シーティスが沈没して多くの犠牲者が出た時、新聞は何日にも渡って哀悼記事を載せたが、その後この潜水艦が戦闘中に沈没して同じように多くの犠牲者が出たときには、ごくそっけない扱いだった。この違いは、増分が知覚されるかどうかは、元の量との比によって決まると言うウェーバー・フェヒナーの法則の1例と考えられよう。ページ396

 

宗教問題が政治問題を凌駕すると、敵国との交渉は全て一旦進行や背信行為のように思われる度合いが増し、カトリックプロテスタントを分裂させた問題は、もはや交渉の余地のないものになった。その結果……外交的接触が減少していったのである ページ417

 

^_^ つまり宗教が戦争に絡むと敵との和解なぞしようものなら仲間から異端とされ火あぶりになりかねない。その結果、戦争は続き、和平は遠のくということか。いや、それはイデオロギーも一緒か。共産主義者と交渉だと!とかなっていたわけだし。馬鹿馬鹿しいなぁ。

 

核兵器の存在が平和をもたらしたわけではない。なぜなら、アメリカだけが核を持っていた時、アメリカは無茶をしなかったし、多くの核兵器を持たない国が核を持つ国と戦争をした。ベトナム戦争中越戦争、などなど。ソ連が衛星国を作った時期はまだソ連は核を保有していなかった。

 

要約
カントの言った、民主主義、貿易、国家間の枠組みは戦争の確率を下げる。政治は残忍な冷酷性もあるが感情的なタブーなどもあり、核の不使用や毒ガスの破棄などに繋がった。

 

第6章 新しい平和

 

平和維持部隊は構想に必要な雰囲気を作ることができる。(譲歩の)革新はプライドにある、それが人間の特性なのだ。威厳を失意したりプライドを傷つけたりせずに交渉できるメカニズムが必要だ 

 

 

^_^ やせっぽちの審判でも巨大なホッケー選手を仲裁できると言うのは良い例えだと思う。

 

統計から導かれる驚くべき発見の1つは、即時の独立、天然資源、革命的マルキシズム(有効である場合)、選挙による民主主義(有効でない場合)など、一見派手でエキサイティングなものは暴力性増加させる可能性があり、反対に、有能な警察、世界経済への開放性、国連平和維持活動、プランピーナツなど、どちらかと言うと地味で退屈なものこそが暴力死を減少させる可能性を持っていることである。ページ557

 

ジェノサイドによる犠牲者の数の選定を初めて試みた歴史学者の1人ランメルが、20世紀に政府に殺害された国民は1億6900万人に上ると推計した事は、広く知られている。確かにこの数は多すぎるが、虐殺行為に関する大多数の研究者の間では、20世紀には戦車よりもジェノサイドによる死者の方が多かったことで意見は一致している。ページ558 

 

ジェノサイドとは人間性(本質主義や道徳観、直感的経済など)、ホップスの安全保障のジレンマ、至福の千年思想、そして指導者が利用できるチャンスが毒性反応を起こした結果、生じると言うことになる。ページ 577

 

第二次世界大戦中のアメリカで、戦争に勝った後日本人はどうすべきか世論調査を行ったところ10%から15%が絶滅させるべきだと回答した。ページ582 

 

^_^ これは日本側でも同じようなものだっただろうし、恐らくもっと多かったかもしれない。

 

マルクス主義の出現は、いわば歴史的な「津波」とも言うべきもので、人間社会に及ぼした影響の大きさには息を飲むしかない。マルクス主義は、旧ソ連や中国のマルクス主義政権による大量虐殺を招き、間接的にはドイツのナチス政権による大虐殺の一因にもなった。ページ594

 

^_^ マルクス主義を跋扈させた理由はやはり資本主義の欠陥にあるのではないか?それを無視して資本主義を先鋭化することがあれば(格差の拡大など)新たな形を変えたマルクス主義を生み出すことになりはしないだろうか?そしてその理想主義が再びジェノサイドを誘発するのではないだろうか?

 

資源不足と多数の人が殺害される内戦との関係を理由にして破滅を予測するものもいるが、サンプル数の多い文献がそれを裏付ける事はまずない ページ650 

 

^_^ 水不足で中国が攻めてくるとか、いう連中がいるが、日本の水を中国はどうやって運ぶのだろう?パイプライン?タンカー?パイプラインは建設に時間がかかり、テロの標的になるし、タンカーで運ぶ分なら、日本が干上がるということもない。だいたい今の中国はお金持ちなんだから、まず、買いに来るだろう。輸出できるものが増えて良かったじゃないか。