酒は百薬の長ではなかった『悲報…「少量飲酒は体にいい」説を否定する論文が発表されていた』

お酒は体にいいのか悪いのか。多くの人が関心を寄せる問題です。「少し飲むのであればむしろ健康にいい」「いやいや、総じて体に悪い」。インターネットの中にある情報は玉石混交で、何を信じればいいのかわからない──。そう、ぼくのように感じている人もいるのではないでしょうか。

ぼくは医療を専門に取材しているライターです。縁あってお酒に詳しい医師と出会えたので、お酒が健康に与える影響の実際のところを聞いてきました。

特に気になるのが、「少量飲酒」。

 

確かに少量の飲酒であれば体にいいという記事や、論文も発表されていますよね。

 

「少しのお酒は体にいい」という説を聞いたことがある人もいると思いますが、こうした考え方は専門家の間ではどう捉えられているのでしょう。取材してみると、実はこれまでの説を脅かす論文が発表されていることがわかりました。

加えて気になるのは、なるべく健康を害さないお酒の飲み方。お酒で健康を損ねたくない人はどんな風に飲めばいいのでしょうか。

医学誌に掲載された驚きの論文
「確かに、少量飲酒が体に良いと結論づける研究は過去に複数出されました。しかしながら、飲酒量に関する質問内容などが詳細に欠けていたため、専門家の中には疑問を抱く人が少なくなかったのです」

こう話すのは、筑波大学地域総合診療医学の吉本尚(ひさし)准教授。吉本准教授はお酒をテーマに研究している医師であり、2019年1月、自身が診療を行う北茨城市民病院附属家庭医療センターに「飲酒量低減外来」を開設。お酒の悩みを抱えている人にお酒との付き合い方をアドバイスしたり、アルコール摂取量の調整を試みたりする精神科以外での専門外来を全国で初めて開きました。

お酒が研究テーマの一つである、筑波大学地域総合診療医学の吉本尚准教授〔PHOTO〕著者撮影
吉本准教授は続けます。

「そんな中で、『少量飲酒は体にいい』説を覆す信頼性の高い論文が2018年8月に医学雑誌『ランセット』に発表されたのです。医療は、“今日の常識が明日の非常識”と言われる最たる分野です。論文一つを絶対視することはできませんが、その内容から、『少量飲酒が体にいいとは言えなくなってきたぞ』と、多くの研究者が感じたのではないでしょうか」

 

 確かに医学・健康の世界は情報が色々と錯綜し、どんどん新しい情報が出てくるので、悪徳医者や、怪しい民間療法などが跋扈する素地になっていますね。悲しいことに。 

 

悪影響を最小化する飲酒量は「ゼロ」…
「少量飲酒が健康に良い」と言われてきたのは、「アルコールが動脈硬化の進行を防ぎ、脳梗塞心筋梗塞などの循環器疾患の発症リスクを下げる」とする研究結果があるためです。

吉本准教授が先に挙げた論文は、世界195カ国で実施された592の研究を統合してアルコールの影響を総合的に評価したもので、研究には500人以上の専門家が参加したといいます。

  メタアナリシス(メタ分析、メタ解析)というやつですね。

ja.wikipedia.org

 

この大規模研究によると、心筋梗塞に限って言えば、やはり少量の飲酒をしている人ほど発症リスクが低いことが確認され、1日における飲酒量が男性で0.83杯、女性で0.92杯でそれぞれリスクが最小になりました。

しかしながら、全体として見ると、飲酒の「良い影響」は限定的でした。 

 

 あくまで心筋梗塞だけで言えば、少量の飲酒は発症リスクを抑えるというメリットがあるということですね。

 

問題は、飲酒によって別の病気が発症する可能性が高まること。たとえ少量であってもお酒を飲めば乳がんや口腔がんなどにかかりやすくなってしまうため、「アルコールによる特定の病気の予防効果はがんの発症リスクで相殺される」と指摘されたのです。

同論文は最終的に、健康への悪影響を最小化する飲酒量は「ゼロ」。つまり、全く飲まないことが健康に最も良いとしました。

 

 つまり心筋梗塞だけではなく、多くの病気を総合的に判断するとリスク最小は「飲まないこと」ということになるのですね。

 

飲酒は200の病気の発症リスクを高める
「少量飲酒に循環器疾患の予防効果があることはアメリカ心臓協会(AHA)も認めていることです。しかしながら、それよりも悪い影響の方が圧倒的に多いため、AHAは循環器疾患を予防するために飲酒することは推奨していません」(吉本准教授)

吉本准教授によると、飲酒は少なくとも約200の病気の発症リスクを高めたり、病状を進行させたりするといいます。近年、患者が増えているうつ病認知症にもかかりやすくなってしまうそうです。

「酒は百薬の長」と昔から言われてはきましたが、身体的な健康への影響に限って言えばそうした考えは否定されていて、少量飲酒の効果も疑問視されているというわけです。

 

 基本的に飲まないで平気なぼくとしては良かった。このまま飲まない生活でいこうと思いますが、お酒が人生の友という人にはツラい現実ですね。

 

缶ビールはロング缶なら1日1本くらいで
「現実は身もふたもない…」

お酒が好きな人はここまで読んでそう感じたかもしれません。少なくともぼくは吉本先生に話を聞いたときにこう思いました。

ただ、そうした現実は現実として、そもそもお酒を飲む・飲まないは個人の自由です。ぼくのように酩酊感を味わうのが好きだったり、心身がリラックスしてコミュニケーションを円滑にさせたりすることをメリットと捉える人も少なくないでしょう。

大切なのは、健康を損ねにくい「ほどほど」の飲酒量を知り、自分で飲酒量をコントロールすることではないでしょうか。

そこで参考になるのは、国の健康づくり対策「健康日本21」の中で厚生労働省が取りまとめたアルコール関連の情報です。厚労省は国内外の研究結果をもとに飲酒のガイドラインを定めていて、「節度ある適度な飲酒」としては、1日の平均純アルコール量を20gとしています。

20gとはおよそ、缶ビール500ml缶(ロング缶)1本、日本酒1合、アルコール7%の酎ハイ350ml缶1本、ウイスキーダブル1杯に相当します。近年増えているアルコール分の多い9%の酎ハイ(ストロング系)だと300mlに当たるので、1缶もない計算になります。

なぜ、「20g」なのでしょう。

厚労省によれば、40~79歳の男女約11万人を9~11年間にわたって調査した国内の研究で、1日の平均純アルコール量が23g未満で最も死亡リスクが低かったという結果が出たためです。

「女性」「顔が赤くなる人」「高齢者」は注意
ただし、女性は先述した基準量よりも少ない方が望ましいといいます。

吉本准教授によると、女性は男性よりも肝臓が小さいためアルコールの分解速度が遅く、また、体内の水分量が男性よりも少ないため血液中のアルコール濃度が上がりやすいそう。結果、同じ量を飲んだとしても男性に比べて病気になる可能性が高いというのです。

お酒の賢い飲み方について解説する吉本准教授(茨城県つくば市筑波大学地域医療システム研究棟で)〔PHOTO〕著者撮影
女性は男性の2分の1から3分の2の飲酒量を適量とするのが世界的な水準であるそうで、厚労省ガイドラインにもこれらは「付帯事項」として記載されています。

また、お酒を飲むことで顔が赤くなるフラッシング反応を起こす人や高齢者も基準より飲酒量を減らした方がいいといいます。

飲酒で顔が赤くなる人は、アルコールの分解がスムーズに進まず、発がん性物質であるアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすい傾向にあり、食道がんなどさまざまな病気が起こりやすくなるとされています。

また、高齢者は若い人より身体機能が劣るので、飲酒によって転倒などによるケガのリスクが高くなります。

1週間分に換算してみよう
飲酒量を調整する際には、1日の適正量を1週間分に換算すると良いでしょう。ビールをよく飲む人であれば、まず頭の中でロング缶を7本並べてみて、曜日に応じて分配していく、といった具合です。

吉本准教授も専門外来などで飲酒のアドバイスをする際は、週単位での調整を勧めているそうです。

ただし、飲まない日を増やすことで、飲む日にたくさん飲んでいいわけではないことは留意しておきましょう。

短時間での飲酒量(ビンジ飲酒)が増えると、急性アルコール中毒やケガ、事故を起こす可能性が高くなってしまうためです。世界保健機関(WHO)は1日の純アルコール量が60g(缶ビールのロング缶3本)を超えないよう推奨しています。

短時間での飲みすぎをやめる
また、吉本准教授の研究グループが国内の大学生2177人を対象にビンジ飲酒に関する調査を行ったところ、1年間に1回以上ビンジ飲酒をしていた人はしていなかった人に比べてケガを起こす確率が25・6倍高かったといいます。

この調査でのビンジ飲酒の定義は世界的な基準にならい、「2時間での純アルコール量が男性50g以上、女性40g以上」としました。ビールを飲む男性であれば、飲む量が多い日であっても2時間でロング缶2本に抑えた方がいいことになります。

健康を維持して長生きすることが全ての人にとって幸せというわけではありませんが、関心のある人は日頃の飲酒量を把握し、推奨される適正量と比較して、調整してみてはいかがでしょうか。

また、飲酒について何らかの悩みを抱えている人は早めに医師に相談するのも手です。「アルコール依存症も多くの病気と同じように早期発見と早期治療が重要」と取材する医師は言います。

その一方で、一般の人からするとお酒の問題について専門的に対応している精神科を受診するのはハードルが高く、医師が診察するタイミングが遅くなりがちだと聞きます。厚労省の調査によれば、アルコール依存症の人は国内に約100万人いると考えられていて、その中で医療機関を受診している人はわずか5万人に留まるといいます。

吉本准教授が「飲酒量低減外来」を開いた背景はここにあります。受診のハードルを下げ、早期治療を行えるケースを増やしたいというのです。

個人的にもこの取り組みには非常に興味があります。

診療報酬など制度の兼ね合いはあるのでしょうが、禁煙外来や睡眠外来のように飲酒外来が増え、飲酒の管理について「専門家と一緒に取り組めるもの」という認識が一般の人に広まれば、自分の中で悩みを抱え続ける人や病気で苦しむ人が減るかもしれません。

吉本准教授は「飲酒量低減外来を端緒に、お酒のことを身近に相談できる文化を日本につくっていきたい」と話しています。

吉本准教授がこの外来を開設した背景や狙いは医療者向け会員制サイト「m3.com」の茨城版に詳しく書きましたので、興味のある方は読んでみてください。

 飲酒で怪我をする確率が上がるというのは納得ですね。よく大けがしたり、ホームから転落したり、危険ですね。 

 

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