『リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理』書評・目次・感想・評価

【著者・ダン・ガードナーさんの気になる著書リスト】

 

専門家の予測はサルにも劣る

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【『リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理』目次と読書メモ】

プロローグ
 
 9.11のテロ以降、人々は恐怖のあまり、飛行機を利用しなくなった。
 その代わり自家用車で移動することが多くなり、1,500人以上が事故で死亡することになった。
 危険度は自家用車の方がはるかに高いのである。
 1,500人は恐怖によって死んだと言える。
 テロリストが一週間に一機ずつ飛行機を墜落させたとしても、やはり自家用車での移動の方が危険なのである。
 
 これは他の本でも紹介されていて知っていたが、何度読んでも考えさせられる。この認識のギャップがセコムなどの警備会社や保険会社などを肥え太らせているのだろう。
 
第1章 リスク社会
 
 人々は恐怖を煽り立てられるなぜなら、それは注目と利益をもたらすからである。
 今世界中で企業が、政府が、マスコミが、NGOが恐怖を煽り立てる。
 それは正しいリスクを反映していない。
 我々は人類史上最も恵まれた環境にいる。
 実は戦争も飢餓も乳児死亡率もかつてないほど低い値で止まっているのだ。
 我々には理性と本能という二つのシステムに動かされている。
 原始時代であれば本能は正しい判断を下したが現代においてはそうはならないことが多い。
 本能はニュースで見た海外の強盗事件を身近なものと判断して出かけるのを取りやめるように訴える。
 原始時代であれば強盗にあったのは同じ村の人ということになるわけで出かけるのを取りやめるのは十分、リスクに見合った判断だが、現代ではそうではない。
 テレビやインターネットで事件を見れば本能は身近なこととして判断するのだ。
 
^_^ 我々は恐怖を認識した時は立ち止まってシステム2である理性を呼び起こし、このリスクは10万人に対して何人に起こりうる?と問わなければならない。よくて間違った判断、さもなければ食い物にされる。
 
第2章 二つの心について
 
 現代は一気にさまざまなものが発展したが、我々が引き継いでいるのは原始時代から受け継がれた脳なので、本能は原始時代とさほど変わらない。
 人の頭の中には怠け者のティーンエイジャーの理性と、原始人が住んでいる。
 大抵は原始人がハンドルを握り時折、理性が口を出す。
 
第3章 石器時代が情報時代に出会う
 
 人はより思い出しやすい事柄の発生率を高く評価する。
 心臓病になりやすい自分の行動を3つ思い出させられた人は、8つ思い出させられた人より、自分の心臓病にかかる確率を高く見積もった。
 なぜなら、3つ思い出すのは8つより簡単だったからである。
 
^_^ 著者は発生率は地震の発生直後が一番低いとしているが、我々、地震国に住む人間にして見ればそれは認識不足である。余震や他の地震の誘発など、むしろ地震の発生率は上がるのを我々日本人は知っている。
 
紹介書籍「なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのかー記憶と脳の7つの謎」

 

なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎

なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎

 

  人はありそうな話を数日間想像させられると、いつの間にか20から40%の人がそれが事実だと思い込んでしまう。

 
^_^ 恐ろしいなぁ。〜ですね。〜見ましたね。〜だったんですね。って言われ続けた人の20〜40%は悪気もなく本当は見ていない目撃者になりうるというわけですね。そうなると、、、防犯カメラって大事ですね。
 
名言
経験は金のかかる学校を経営しているが、愚か者が他の学校で学ぶ事はないだろう(ベンジャミン・フランクリン)ページ85
 
^_^ 地震の件に関しては苦笑するしかないが、津波の件はなぜか津波の歴史があるのに、経験していないからか危ないところに家を建てる、、、。経験しなけりゃわからないのか、経験してもわからないのか、、、
 
第4章 感情に勝るものはない
 
 人は感情で判断し、理由を尋ねられて、から理性を働かせて考えるが、それは必ずしも正確ではなく、むしろでっち上げの方が多い。この車かっこいいと思ってなぜ?と尋ねられて答える時は大抵、無理やり理性が理由をひねり出し、それはでっち上げである。
 
^_^ 自動車会社はデザインを見せていい悪いを判断させても、理由はあてにならないから聞かないほうがいいようだ。
 
 人は良いものはリスクが低いと判断しがちである。
 日光浴は確実なリスクにもかかわらず人はそのリスクを低くみる。
 原子力に関してはリスクを高く考えるが、レントゲンを悪いものだとは考えない。
 大惨事、不本意、不公平が極度の恐怖をもたらす。
 あちこちで人が癌で死ぬより、事故でまとめて死ぬ方がリスクを高くみる。
 人は自然災害よりも人が起こす災害を大きなリスクとして捉える。
 惑星衝突のリスクは小さくみるのに、フセインの核攻撃の可能性は高くみる。
 
第5章 数に関する話
 
紹介書籍「裁かれた豊胸材ー全米を吹き荒れたPL訴訟の実態」
裁かれた豊胸材―全米を吹き荒れたPL訴訟の実態

裁かれた豊胸材―全米を吹き荒れたPL訴訟の実態

 

 

紹介書籍「運は数学にまかせなさいー確立・統計に学ぶ処世術」
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運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 *3

 

 人間の腹の部分は特に確率を理解することが難しい。
 一週間に5件殺人が起きれば何かあると考えるが大抵は偶然の産物である。
 しかし、多くの人はそれを理解できない。
 いやむしろ頭で理解できても感情というか本能がそれを許さない。

 
第6章 群は危険を察知する
 
名言
人間の知性は一旦1つの見解を受け入れてしまうと、その見解を支持しその見解に賛同するあらゆるものを引き寄せる。そして、より多くの店より重要性の高い事実が、その見解と逆の立場に見つかっても、なお、そういった事実を無視したり見下したりするか、さもなければ、何か違いを持ち出して脇に追いやったり拒絶したりする。こうして、この道超えた有害な決めつけによって、元からある結論の権威が無傷のままでいられるようにする(フランシス・ベーコン)
 
 同じような見解を持った人が集まって会合をすれば見解はより先鋭化、極化する。では危険なことではあるが事実である。
 
 利益とリスクを天秤にかけその重みを判断する基礎となり得るものは文化である。
 個人主義的な人はリスクを小さく見積もり利益を大きく捉える。
 より社会主義的な思想を持つ人はリスクを大きく捉え利益を小さく考える。
 これは人種の問題ではなく、文化の問題である。もちろん白人文化、黒人文化と言うものも存在している。
 
^_^ そう考えるとあらゆる反対運動を行っている人たちが多くの場合社会主義型の政党に属しているイメージがあるのはこういった傾向が反映されているからなのだろう。どちらが正しいのかではなく。
 
第7章 恐怖株式会社
 
紹介書籍「怖くて飲めないー薬を売るために病気は作られる」
怖くて飲めない!―薬を売るために病気はつくられる

怖くて飲めない!―薬を売るために病気はつくられる

  • 作者: レイモイニハン,アランカッセルズ,Ray Moynihan,Alan Cassels,古川奈々子
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本
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紹介書籍「心脳マーケティングー顧客の無意識を解き明かす」
心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press

心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす Harvard Business School Press

 

 

 昨今の腹と脳と言う2システムの考え方は広告業界にやっと学会が追いついたとすら言えるものである。
 マーケティング業界は遠の昔にこのシステムを理解し利用してきた。そしてそれをさらに加速させようとしている。
 
 私たちはかつてないほど安全で健康であるにもかかわらず、怪我や病気、私についてこれまで以上に心配している。
 なぜか?部分的には、実際にはこれまでより安全で健康であると世間の人を納得させることによって金儲けができる機会はほとんどないが、恐怖を助長することによって作り出される巨大な利益が存在するからである。
 ルーズベルトが「いわれのない恐怖」と呼んだものは、感じている人や社会一般にとってはよくないことかもしれないが、株主にとっては素晴らしいものである。ページ208
 
^_^ 恐怖を利用して必要のないものを買わせるマーケティングはいくらでもその例を見つけることができる。ずいぶん前から思っていたが全く、、、。社会を恐怖に陥れても金が欲しいのか、強盗とそんなに違わない連中だ。特に気をつけなければならないのはマスコミと製薬会社そして保険会社だろうな。
 
 あまりにも断定的な言い回しであればそれは学者としての発言ではなく運動家としての発言と捉えるべき。科学者であれば最も確率の高い状態でも「可能性が非常に高い」程度、断定は避けるはず。
 
第8章 活字にするのにふさわしい恐怖
 
 メディアは統計的に意味のない、センセーショナルなニュースを漁り、それを報道している。その結果、我々の本能的な判断は狂わされている。
 癌で死ぬのはほとんど老人であり、サメは滅多に人を襲わない。
 
第9章 犯罪と認識
 
 視聴者の恐怖心とメディアの煽り立てはタンゴのように踊り舞い上がりそこに政治が絡んでくる。
 犯罪者に厳しくすれば支持を得られるので犯罪は減っているにもかかわらず、より厳しい法が可決され刑務所には犯罪者が溢れる。
 
第10章 恐怖の化学
 
名言
すべての物質は毒である。毒でないものは存在しない(パラケルスス 医師・錬金術師)
 
 毒を治療と区別するのは正しい投与量である。これは毒性学の第1原則である。ページ343
 
 金儲けが目的の企業、票が目当てのの政治家、社会的影響力を求めるNGOなどが我々の直感に訴える。
 化学物質は危険だと。微量でも危険です。だって安全だって証明されてないんでしょ?だったら危険ということにしておきます。
 対策には費用がかかる。
 何事もトレードオフであり、より安全にすることはできるが、完全に安全にすることなどできない。
 恐怖は誤った方向に利用され、真の問題、喫煙や運動不足、野菜不足などが無視されている。
 
第11章 テロに脅えて
 
 民衆の敵ナンバーワンで昇格する事は、まさにテロリスト集団が求めていることだ。ページ427
 
 テロリストとの戦争を宣言することは、テロリスト集団が求める名声を手渡すことだ。ページ428
 
^_^ まさにブッシュはそれを行った。9.11を利用した。そしてビンラディンもそれを利用した。2人は共闘関係だったと言っても良いのかもしれない。ビンラディンが9.11以降、アルカイダが9.11以降、力をつけたのは間違いない。アメリカ政府が違った対応をしていたらもっと違った結果になっていたのでは?
 
紹介書籍「500億ドルでできること」
五〇〇億ドルでできること

五〇〇億ドルでできること

 

 

第12章 結論ー今ほど良い時代はない
 
紹介書籍「今世紀で人類は終わる?」
今世紀で人類は終わる?

今世紀で人類は終わる?

 

 

 人は過去を知っているのでここは暗闇に閉ざされていない。
 現代がとても良い時代である事は間違いないのだが、将来は見通せないので人々は恐怖を感じる。
 いつの時代においても人々の情報を煽るビジネスは存在し、そのようなドラマ映画小説はビジネスとして成功を収めている。
 しかし、専門家の未来予測も調べてみれば猿の予測に劣り、恐怖の予測もことごとく外れてきた。
 
^_^ 少なくとも未来を予測するものはほぼ読む価値はないと言えるのかもしれない。過去を学ぶことで起きたことに対処できるが未来予測はあてにならない。
 
 
 
 
 
 

*1:ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ

*2:ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ

*3:ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ