「世界一貧しい大統領」がいたウルグアイ、大統領専用機を売却

 この記事を読むと当然の事に気づかされる。

 

 世界一貧しい大統領を産んだのはウルグアイ国民の叡智なのだと。

 

 我々日本人は時折、他国の政治家を羨ましがる。台湾で新型コロナ対策にITを活用し活躍したオードリー・タン氏、そしてこの世界一貧しい大統領と称されるホセ・ムヒカ氏など。

 

 しかし、他人ごとではない。指導者を指導者たらしめているのは民主国家においては国民の支持なのだ。

 

 我々日本人は年若く、性別的にニュートラルであるとするオードリー・タン氏のような人物を新型コロナ禍の未曾有の危機の中、国の中枢に置いて舵取りを任せる気概があっただろうか。

 

 ホセ・ムヒカ氏のような経済発展至上主義を否定する人物を国の中心に据えるような勇気があっただろうか。

 

 恐らくないだろう。その点において、日本にいる政治家が劣っているのではなく、我々日本人が、我々一人ひとりの日本人が、台湾の人々、ウルグアイの人々に遠く及ばないということなのだ。

 

 日本の地方自治体の公用車問題と、このウルグアイの大統領専用機売却のニュースを読んでそう思うのだ。

 

 日本にいる呆れかえるような政治家たち。これが我々日本人一人ひとりの政治に対する態度の表れなのだ。

 

 あいつらを支持し、支えているのは誰でもない。僕であり、この記事を読んでいるあなたなのだ。

 

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 南米ウルグアイ、人口僅か370万人であるが、国土は日本のほぼ半分の面積。この国で2010年から2015年まで大統領を務めたホセ・ムヒカが今月20日上院議員を辞任して政治の世界から引退したことは日本でも報じられた。アルゼンチンとは兄弟国のような国であるが、アルゼンチンが無駄使いの目立つ国であるのに対し、ウルグアイは倹約を信条とする国としてよく知られている。

 その倹約振りを表明するかのように、その翌日21日には大統領専用機が売却された。機種はホーカーHS125-700A、8人乗りで4時間半の飛行が可能。現大統領のルイス・アルベルト・ラカリェがそのような維持費だけでも無駄使いの専用機など必要ないとしてその売却を決めたものだ。

ムヒカ元大統領は外遊時もエコノミー
 ムヒカ元大統領も専用機の購入には反対で、最も貧しい大統領だった時は「ウルグアイに専用機は必要ない」という主張を繰り返して国内を移動する時は良く軍隊のヘリコプターを利用していた。夜の移動の場合は道路事情が良くないので飛行機をチャーターする場合もあったという。それが重なると経費も高くつくようになっていた。それでも大統領の時のムヒカはできる範囲で経費の節約に調整して行ったそうだ。

 外国を訪問する場合も彼は高齢ではあるが、エコノミーのフライトを探していた。時に、外国の指導者が飛行機を手配してくれていたそうだ。故人となったベネズエラのウーゴ・チャベス前大統領は彼をピックアップするのに何度もチャベスの専用飛行機をウルグアイに行かせたそうだ。ブラジルの場合も同様で、ジルマ・ルセフ元大統領そしてアルゼンチン元大統領で現副大統領のクリスチーナ・フェルナデスも彼をピックアップするのに専用機を彼のもとに送ったという。

 我の強いクリスチーナ・フェルナデスと2013年に嫌悪な関係にあった時、ムヒカは彼女に立腹して彼女を指して「あの婆は(ネストル・キルチネール元大統領よりも)ひどい奴だ。(ネストルを指して)あのひどい奴は(彼女を指して)このひどい奴よりもっと政治家だった」と記者会見が終わった後、私的にそれを口にしたという(※ネストルとクリスチーナは夫婦)。

 ムヒカのこの陰口は、彼女に伝わっていたようで、チャベスが南米諸国連合の会議をチリの首都リマで急遽することになった時に、ムヒカにはリマまで行ける便がないということを知っていたフェルナンデスは彼女の専用機タンゴ01を手配してムヒカをリマに送った。その時、彼女が言ったのは「その通り、私はひどい奴でしかも婆だ。それでも爺を(リマまで)連れて行けるというのは幸運だ」とリマを訪問した後に語ったそうだ。(参照:「El Pais」)
 当時の南米は反米左派政権の国が多くあった。ベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイボリビアエクアドルといった国々だ。

 

大統領専用機を買ったムヒカの次のバスケス前大統領
 本題のウルグアイの大統領専用機の話に戻ろう。
 この専用機の購入には会計監査院も反対していたが、最終的にそれをウルグアイメルセデスベンツのディーラカルロス・ブスティンから101万ドルで購入された。購入したのはムヒカの次に大統領に就任したタバレ・バスケス前大統領だった。ムヒカとバスケスウルグアイにとっては新しい政党拡大戦線に属している議員で、ムヒカの前の2005年から2010年にも大統領を務めたバスケスは、その当時から専用機の購入を望んでいた。ところが、倹約を信条とするウルグアイでは議員の間でもそれに反対する声が多かったのだ。

 バスケスはゲリラ出身のムヒカと違い、彼は元医師でウルグアイを国際的にもっと世界で知ってもらいたいという願望をもっていた。その為にも国際移動で専用機は必要だと主張していたのである。
 結局、バスケス前大統領がこの専用機を使用したのは2年半で、それによる政府の維持費は300万ドルだったという。(参照:「El Observador」)

大統領専用機は18万ドルでアルゼンチンのホテルチェーン経営者の手へ
 今年3月に大統領に就任した国民党のルイス・アルベルト・ラカリェは従来の倹約国ウルグアイに戻るべきだとして専用機の売却を決めたもの。ウルグアイ1830年の初代大統領の時から右派のコロラド党と国民党が、途中軍事政権をあったが、政権を二分して来た国で、拡大戦線というのはバスケスとムヒカの二人による15年間の政権だけである。

 拡大戦線が政権を担っていた時は野党であった国民党のラカリェ大統領は、専用機は必要ないという考えに基づいて売却することを決めていた。それも競売にかけての販売で進めた。パナマとアルゼンチンの企業家の間の駆け引きとなったが、最終的にアルゼンチンのホテルチェーンの経営者が18万ドルで落札した。

 専用機を救急用としても利用できるようにしたため、その為のベッド1台にその為の設備の設置費用が9万ドルしたが、今回の売却はベッドを2台据えたかのような費用での販売だということになることを外相のハビエル・ガルシアが指摘している。

 同外相は、競売で落札された価格そのものへの評価よりも、2年半の維持費用が今後必要でなくなるということに重きを置いて、「国家にとって大変重要な節約になる。それは我々の倹約政治に沿うものである」と述べた。(参照:「El Observador」)

 日本ではホセ・ムヒカ元大統領の引退だけが報じられたが、同時にコロラド党のフリオ・マリア・サンギネティー元大統領(1985-1990と1995-2000)もムヒカと同じく上院議員の席を明け渡すことにして政界から引退した。双方は長年のライバルであった。Youtubeにてこの二人の抱擁を見ることができる。

<文/白石和幸>

【白石和幸】
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身