書評『サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福』

 

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

 

 95点

読み終わるまでに掛かった時間 7時間

『サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福』の書評

 共産主義、まして自由主義というイデオロギーですら、共同幻想という点では宗教と差異はない。文化は人々に寄生し、時に宿主を殺すこともある。

 こうしてみると読書というのは思考の曇りを取り除く行為でもあるとつくづく思う。絶対的な価値観などないのだと思い知らされる。

 文明の発展は人類の幸福に寄与しているということも、幻想に過ぎないかも知れない。そういわれると人類はどこに向かっているのか、個々の人々は幸福を追求し、テクノロジーは進歩しているのに、、、次の技術革新で人類は幸せになれるだろうか?

 読み通すのに7時間ほど掛かった。高校生ぐらいから読みこなせると思うが、大学生にはぜひ読んでもらいたい。偏狭な思考に陥りやすい年ごろで、この手の厚めの本も読みこなせる時間もありますし。お勧めです。

【『サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福』目次+読書メモ】

第12章 宗教という超人間的秩序 
神々の台頭と人類の地位/偶像崇拝の恩恵/神は一つ/善と悪の戦い/自然の法則/人間の崇拝 

 
共産主義や現在、多くの先進国が信奉している自由主義というイデオロギーすら宗教と差異が無い。著者のその主張に目からウロコ。
 
確かに言われてみれば、新しいタイプの宗教といってもいいかも知れない。それに違和感を感じるのは我々自身がそれを信じ浸かりきってしまっているからかも知れない。
 
イスラムの教義で運営されている中東の国々を我々は異端視するが、我々民主国家の政体、それほど変わらないのかもしれない。
 
第13章 歴史の必然と謎めいた選択 
1 後知恵の誤謬/2 盲目のクレイオ 
 
歴史は必然ではない。そして歴史のダイナミズムは人類を幸せにする方向に進んでいるわけではない。文化もそれは寄生虫のように人々に宿り広まって行く。そして宿主を幸せにする為にあるわけではない。時には宿主を殺すことすらある。
 
この章はこの本の核となる言葉が書いてある。

第4部 科学革命 

第14章 無知の発見と近代科学の成立 
無知な人/科学界の教義/知は力/進歩の理想/ギルガメシュプロジェクト/ 
科学を気前良く援助する人々 
 
長きにわたって科学は政治や資本と繋がってこなかった。しかし、産業革命以後、科学と資本、政治が繋がり、お互いに循環して進み始めた。
 
そして現代でも科学と、政治、資本は密接に繋がっている。イデオロギーに支持された科学には国家による莫大な予算が組まれ、経済的価値がある研究開発に資金が流れ込む。科学は当然、それらとは別ではいられないのだ。

第15章 科学と帝国の融合 
なぜヨーロッパなのか?/征服の精神構造/空白のある地図/宇宙からの侵略/ 
帝国が支援した近代科学 
 
ヨーロッパだけが世界に知らない場所、知らないことが山ほどあると知っていたから世界を支配することができたという話は理解できる。
他の帝国は自分の周り以外は何もないと思っていたり、思い込もうとしていたからなのか。
それにしても好奇心、無知の知という力の恐ろしい。
同時にアジアに置ける日本という国の特殊性にも思いを巡らせずにはいられない。

第16章 拡大するパイという資本主義のマジック 

拡大するパイ/コロンブス、投資家を探す/資本の名の下に/自由市場というカルト/ 
資本主義の地獄 
 
資本主義というカルトは過去、中国人の10人に一人を阿片中毒にし、アフリカ人の多くを奴隷として攫った。金を稼ぐために女王陛下は兵を送り、金を取り立てるために軍艦を送った。
 
!歯止めのない資本主義の暴虐を改めて羅列されると、どんなことでも原理主義わかりやすい解がどんな結果をもたらすか、考えさせられる。だが、人はわかりやすさに魅了される。おそらく今もこれからも。気をつけなければならない!

第17章 産業の推進力 
熱を運動に変換する/エネルギーの大洋/ベルトコンベヤー上の命/ショッピングの時代  
 
昔、王侯貴族は浪費し、庶民は節約した。今は資本家は投資し、庶民は消費する。世界は逆転したように見える。
 
!我々は資本主義の罠、つまりは消費の罠にはまると、ネズミのように滑車を回し続けなければならなくなる。俺は降りたい!

第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和 

近代の時間/家族とコミュニティの崩壊/想像上のコミュニティ/変化し続ける近代社会/ 
現代の平和/帝国の撤退/原子の平和 
 
国家コミュニティと消費者コミュニティ(マドンナのファン、欧州サッカーのファン)などは同様に想像上のコミュニティであり。近代国家は家族コミュニティや地域コミュニティから力を奪って国家というコミュニティに組み入れてきた。
 
近代はかつてない殺戮の少ない世界。独裁国家の中でさえ、原始コミュニティに暮らす人々よりもはるかに人の暴力で死ぬ確率は低い。特に核兵器が開発されてからは国家間戦争は起きにくくなっていて核兵器開発者はノーベル平和賞に値する(笑)。
 
平和と貿易が発達するにつれて戦争の意義は失われている。平和の配当が大きくなり続けているからだ。
 
また、戦争によって他国の領土を奪う意味は少なくなっている。富は人であり、人の脳の中にあるからだ。(例、シリコンバレーハリウッド)
 
そう考えると中国が日本を攻めてくるという可能性は低いと考えられる。日本は現在も人的資源がほとんどであり、天然資源は少ない。実際、中国がレアアースの輸出を止めた時も日本企業は新素材を開発して乗り越えた。これはやはり現在の資源は人の脳の中にあると言えるのではないだろうか?!

第19章 文明は人間を幸福にしたのか 
幸福度を測る/化学から見た幸福/人生の意義/汝自身を知れ 
 
文明は間違いなく時代の流れとともに発達してきた。しかし、それは果たして人類の幸福に貢献してきただろうか?
死後、神の身元にゆけると強く信じられた中世の人々は現代人より幸せだったのではないだろうか?
結局、幸福は脳内物質の作用による。幸福感は一時で、すぐに平常に戻る。
独裁国家に住みものより、民主国家に住む者が幸福感を味わっているという研究結果はない。
仏教では心の幸福を追うことですら無意味と喝破する。
我々は歴史の成果が人々の幸せに貢献してきたのかをもっと研究すべきだ。
 
!僕の考えていたときおり贅沢で幸せの法則はありだと思う!

第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ 
マウスとヒトの合成/ネアンデルタール人の復活/バイオニック生命体/別の生命/特異点
フランケンシュタインの予言 

あとがき――神になった動物 
謝 辞 
訳者あとがき 
原 註 
図版出典