『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』書評・目次・感想・評価

【Q1】どんな人にオススメ?

  音声認識やAIに興味があるけど難しそうな解説書にはちょっと手が出ないというあなた。将棋でチェスで人間を超えたAIが言語認識でどこまで進んでいるのか知りたいあなた。

【Q2】この本の弱みは?

  わかり易くしようと童話調にしているのですが、やはり解説は必要ですし、論理などは読んでいてもイタチたちと一緒で「訳わかんねぇ」ってなる。

【Q3】この本の強みは?

  なんといっても童話調のイタチ村物語が秀逸。版画のカバーやイラストもとても魅力的。童話調の物語部分と解説部分に分かれているのでとりあえず物語部分だけ読んでもいい。AIはもちろん我々人間がどれだけ言葉を操るのに複雑なことをしているかを思い知らされる。

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」

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【『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』目次と読書メモ】

第1 章 言葉が聞き取れること 
音声と音素 
機械による音声認識と、機械の「お勉強」 
人間による「聞き取り」の習得 
人と同じようにしないとダメ? 
 
 イタチ、万能ロボット制作のため、モグラが作った万能耳を見に行くと、喋った言葉を漢字交じりの文章に変換する耳をモグラにセールスされる。
 しかし、万能耳は方言の強いイタチの言葉を変換できない。
 多くの場合、例題と正解を大量に与えられて、変換効率を上げる。
 人間の赤ちゃんの場合は正解を与えられないままでも学習できる。
 日本語環境では赤ちゃんはrとlの発音の聞き分けを後天的に失う。勿体無いようだが、これは不要な回路を削除する大切な過程。
 
^_^とてもわかりやすい説明になっているAI本を何冊か読んでいるので目新しい内容な無いが個人的にこの章では復習ができた。

第2 章 おしゃべりができること 
チューリング・テスト 
「会話をする機械」の現状 
ぼんやりしたやりとり、ぼんやりした理解 
「真偽が問われる」レベルでの言語理解
 
 イタチはモグラの紹介で雑談のできるロボットを作ったカメレオンのところへ。
 若者向けの雑談ロボットと、中高年向けのカウンセリングロボット。
 カウンセリングロボはおうむ返しと掘り下げて聞き直すのがメインだが、カウンセラーとしては結構使える。
 実際の会話AIとしてはリンナというものがある。
 チューリングテストは会話を体験した人が人間かプログラムか区別がつかない場合は成功とみなされる。
 これをありにしないと人間である他人すらプログラムである可能性を疑わなければならなくなる。
 人間の会話の6割は雑談。雑談時は曖昧な言葉遣いが多く、雑談が上手にできることがプログラムが人間に近づく大きなポイントになっている。
 
^_^リンナは遊べるらしいからやってみよう。

第3 章 質問に正しく答えること 
質問に答える機械 
「言葉の世界」の中だけでの「理解」 
 
 イタチはタヌキのアドバイスでありのところへ。
 アリはアリクイ対策に巨大な蟻神ロボットを作成していた。
 蟻神ロボットは質問に対してネット上から答えを見つけて答えることができたが、画像認識ができないのでリンゴを見せてもリンゴと認識できなかった。
 所詮はネットの中の文章の外には出てこれない存在だった。
 
第4 章 言葉と外の世界を関係づけられること 
機械が画像を「認識する」 
深層学習の基本を少しだけ 
画像・動画の「表現力」の限界 
外界の情報と「文の真偽」との関係 
 
 イタチはフクロウのいる村を訪れる。そこでは画像を認識して答えるロボットがいた。
 そしてイタチはフクロウのロボットを分けてもらうため、ディープラーニング用の写真を撮ってくることになる。
 しかし、愛や恋、無などの抽象的な言葉や、文章などの写真や画像を投入したところ、フクロウのロボットは混乱してしまう。
 深層学習の仕組みは完全に解明されているわけではない。
 AIに目だけでなく身体性を持たせればもっとわかることがある。
 はっきり目に見えるものはともかく、組織や愛など抽象的なもの。思考などを含む文章などはAIに覚えさせるのはとても難しい。
 
^_^愛や組織などは我々人間もきちんと認識しているかわからないし、個人的なブレがあると思う。もしかしたらそれが鍵になるかも。そして何より深層学習についてはシステム的に完全には解明されていないということに驚いた。

第5 章 文と文との論理的な関係が分かること(その一) 
論理って何? 
推論と意味理解 
「論理的に考える」ことのじゃまになるもの 
機械による論理的な判断:含意関係認識
 
 イタチは周辺の村々に迷惑をかけたということで裁判にかけられ売り飛ばされそうになる。
 しかしタヌキのとりなしで文章を論理的に理解できるロボットの開発で勘弁してもらうことになる。
 論理的に考えることの邪魔になるのは感情や曖昧さ。
 
^_^論理的な話になってくると日頃。わかりやすかったことが逆にわかりにくくなったりする。逆に言えば我々は無意識的に論理をつかっているというわけか。

第6 章 文と文との論理的な関係が分かること(その二) 
文を推論パターンに当てはめる 
文と文の類似度を手掛かりにする 

 イタチはロボット開発を始めるがすぐに飽きるし、行き詰まる。
 そこでタヌキに助けを求める。
 タヌキは分厚い本を用意してイタチに学ばせようとするが、イタチはもっと簡単な方法を求めて文の類似度に注目することにする。
 正しく認識するにはチワワは犬であるというような常識も大量に必要になる。
 さまざまな意味に読める文章も沢山ある。「優しいお母さんの猫」など、優しいのはお母さん?猫?
 
^_^読者も正直、イタチと同じ気持ちになる。もっと簡単に、、
 
第7 章 単語の意味についての知識を持っていること 
「全部教えたらいいじゃない」 
意味に関する知識の自動獲得 
単語の意味は、周辺の単語で決まるのか? 
句や文をベクトル化する 
 
 イタチはディープラーニングの専門家であるメガネザルと出会う。
 メガネザルは言葉をベクトル化する事で処理を進めた。
 
^_^ つまりは言葉に複数の数値を与えたということでいいのかな?
 
 そこでアウトソーシングで例文を50万ほど増やすことにして問いに高い確率で答えるロボットの開発に成功する。
 イタチは他の村のシステムを統合して万能ロボットを完成。
 温泉旅行に出かける。

第8 章 話し手の意図を推測すること 
意味と意図 
曖昧性の解消 
会話的含み 
意図を伝えることの難しさ 

 いたちの作ったロボットは顧客の村々でトラブルを発生させる。
 イタチたちは旅行に行ったまま。
 ロボットは曖昧さ問題などでトラブル頻発。
 イタチたちは帰ってくると返品と損害賠償請求の山。
 そこでイタチたちはシステムの改良ができるロボットを探しに出かける。
 ロボットにロボットを開発させるのだ。
 イタチたちはインドでそのロボットを見つけるがそれを使ってもやはりうまくいかない。
 
^_^ 万能ロボットを作るのはやはり難しいようだ。しかし人間のできないことをするAIは既に完成している。しばらくは人間とAIの協業が世界を動かしていくのだろう。
 
終章 その後のイタチたち 
「何でもできるロボット」の難しさ 
では、私たち人間は? 

あとがき 
註と参考文献 
 
^_^ AIディープラーニング言語学者の角度から解説した本。
 
 ディープラーニングでは中間で曖昧なクッションを置いて答えを探している。
 
^_^ディープラーニングが開発されたからといって一気に人間が作れるわけがない。課題はたくさんあるだろう。しばらくはやはりAIと人間の協業が世界を動かして行くだろう。
AIにできることはAIに人間にしかできないことは人間がやるということでしばらくはいいと思う。
 
89点
読了まで2時間