「無知」の技法 不確実な世界を生き抜くための思考変革 スティーブン・デスーザ ダイアナ・レナー 訳上原裕美子
【目次】
序文
はじめに
Part 1
「知識」の危険性
チャプター1
「知っている」は良いことか?
1 知のパワー
2 概知を疑い、自分の目で見て、考えた解剖学者
3 独りよがりのうぬぼれ
4 狐とハリネズミはどちらが賢いか?-専門化の限界
5 意図的に目をつぶる−アスベストに冒された街
6 見せかけの知-なぜ、リーマンショックは予測できなかったのか?
チャプター2
専門家とリーダーへの依存
1 知りすぎているリーダーと組織
2 確信とバイアスの問題
3 期待と言う重圧
4 知っているふり
5 権威に対する盲目的な服従
チャプター3
「未知のもの」の急成長
1「知っていること」は常に変化する
2 どんどん「複雑化」「曖昧化」する世界−猫を木からおろせるか?
3 煩雑−複合−混沌
4 複雑なものとどう向き合うか
Part2
境界
チャプター4
概知と未知の境界
1 フィニステレ岬に到着して
2.「未知のもの」を避ける
3 無能であることへの恐怖-王様は服などを着ていない
4 未知との境界線でのリアクション
5 境界線を越える必要性
チャプター5
暗闇が照らすもの
1「知らない」-無知を見直す
2 未知の国の住民から学べること-命を落とした探検家
3 芸術家-天使と悪魔の間の領域に挑む
4 探検家-山1つずつ
5 心理療法士-不可知の道
6 科学者-逸脱する自由
7 起業家-「次なる未来」を発見する
Part 3
「ない」を受容する能力
チャプター6
カップを空っぽにする
1 初心に立ち返る-ムハマド・ユヌスがグラミン銀行を設立できたたった1つの理由
2 コントロールを捨てて信頼する
3 「手放す」と言うプロセス
4 「わかりません」と言ってみる
5 疑いを楽しむ
6 抵抗感と向き合う
7 身体で無心になる
チャプター7
見るために目を閉じる
1 目を閉じてみる-盲目の写真家が描き出す世界
2 観察の技法-ド・メーストルの「部屋を巡る旅」に学ぶ
3 沈黙のための場を作る
4 U理論の4つの「聞き方」
5 思い込みに逆らう
6 権威や専門知識に疑問符を投げかける
7 問いかける
チャプター8
1 闇に飛び込む
2 仮説を立てる-シャーロック・ホームズとゼブラ・ハンター
3 対話(ダイアログ)で多様な声を集める
「意味のあるリスク」を取る
4 冒険する-映画監督、ヒッチハイクで旅する
実験的なアプローチ-ドラッグ合法化と言う発想
5 失敗を受け入れる-偶然の自ら絶妙なソースは生まれる
6 早めに失敗する-ゴールドラッシュから引き継がれた起業家精神
7 やらない理由がどこにある?
8 責任を引き受ける
チャプター9
「未知のもの」を楽しむ
1 愚かさを楽しむ−タロットカードとジョブズのメッセージ
2 ユーモアと言うスキル
3 好奇心とクリエイティビティー
4 大胆さと脆さ
5 思いやりと共感
6 連帯感-未知の不安に共に備える
7 しなやかさ-予期せぬ大規模災害に際して
8 アンチ・フラジャイル-折れず、むしろ伸びやかに
終りに
appendix 歩くことによって作られる道
1「問い」と共に生きる
2 歩くことによって作られる道
1「問い」と共に生きる
2 実験
謝辞
引用文献
【読書メモ】
未知に対する人間の一般的なアプローチには穴がある。本書の狙いは、その穴を考察し、「知らない」と言う事との関係をもっと実のあるものにする方法を探ることである。
ページ6
「知らない」と言うのは状態ではなく動作だ。無知と対峙するプロセスのことだ。
ページ6
現代の私たちからすれば、ガレノス信者の解剖学者たちは愚かに思えるかもしれない-だが、私たちも今、同じような過ちを犯し、既存の知識の確実性に頼っているのではなかろうか。
ページ28
^_^ 過去の過ちを知るところから、今の自分も、誤っているのではないか?と考えられるかどうか、それが大きな分かれ目だと思う。きっと現代人の我々も、当時の現代人と同様に愚かな間違いを犯している。間違いなく。
言葉とは、物事を共に認識するために必要なものだと言うのに、人間は、意味をなさぬ賢者の言葉をまるで知恵の塊であるかのように扱う
ヘラクレイトス(哲学者)
シンプルに説明できないのなら、きちんと理解していないと言うことだ。
アルバート・アインシュタイン
トンカチを持っていたら、何でもくぎに見えてくる
ページ36
何事も、師や先達の権威のみを根拠に信じてはならない。何世代も受け継がれてきたからと言う理由だけで、伝統を信じてはならない。仏陀
ページ73
知とは球体である。大きくなればなるほど、未知との接線も伸びる。ブレイズ・パスカル(17世紀の数学者、哲学者)
ページ78
世界がかくも急速に変化しているのだから、私たちの知っていること、知っていると思っている事は、どんどん無価値・不正確になっていく一方なのだ。
ページ80
知識が広がれば広がるほど、自分が知れば知るほど、知らない事は少なくなると私たちは考える。確かに理屈としてはそうだ。問題はこの発想が、「知り得ること」と言う宇宙の広さは固定だ、と言う想定に基づいている点にある。
ページ80
危機後の我々は「理由はわかっている」と自分に言い聞かせながら、世界は理解可能なものだと言う幻想を守っているのだ。ダニエル・カーネマン(心理学者)
ページ83
概知の概知と言うものがある。我々が知っていると我々が知っている物事だ。一方、概知の未知と言うものがある。我々が知らないと言うことを我々が知っている物事のことだ。だが、それ以外にも、未知の未知と言うものがある。我々が知らないことを我々が知らない物事だ。ドナルド・ラムズフェルド(アメリカ国防長官)
ページ84
複雑な問題には、必ず、明確で、単純で、間違った答えがある。ヘンリー・ルイス・メンケン(ジャーナリスト)
ページ90
^_^ 複雑な問題に対する、明確で単純で間違った答えの例として、禁酒法がある。飲酒の悪癖を一掃しようとある種の善意を持って制定された禁酒法があの無法と暗黒の時代を生み出したのだ。現代に翻って考えてみても、単純な解決法には劣らぬ人気がある。これをすれば痩せる、これをだけで健康に。国単位でも、少年犯罪にはとにかく厳罰化だ、老人が増えたから安楽死を認めろとか、大麻の問題まで厳罰化だ、とか解禁だとか。単純で結果が見えるような気がする解決法が支持されがちだが、答えは恐らくそんな単純でもなく、極端な解決法には無い。答えは恐らく中間にある。例としては大麻ならば医療用の大麻の解禁、医薬品として医師に処方される場合に限定しての解禁など、ややもやっとした解決法が、正しいだろう。しかし、それは大勢を占める、厳禁派にも、解禁派にも明確な支持は得られないだろう。人々はすっきりとした解決策を求めがちだからだ。
矛盾や曖昧さをも楽しめる開かれた心で、黒か白かを決めつけない中庸の生き方をしていけばいいのです。ペマ・チョドロン
ページ141
天使と悪魔の間の空間で生きる方法を学びなさい
ページ143
^_^ 人は天使にも悪魔にもなれない。だからその間で、白でも黒でもなく灰色で生きていくしか無いのだ。
未知の領域に乗り出すときは、その過程の小さな成功や目標到達を喜ぶことが大切だ-と、エドゥルネは信じている。たとえ、最終的なゴールには至らないとしても。
ページ148
事実があるはず、理屈があるはずと追求するのではなく、不確かなこと、不可解なこと、よくわからないことの中に、ただすっくと立っている力
ジョン・キーツ(4人、シェイクスピアを評して)
本当の発見の旅とは、新たな土地を探すことではなく、新たな目で見ることだ。マルセル・プルースト(作家)
ページ211
予想外の展開でいつものやり方が通用しなくなった時は、物事がつまずいた時、大慌てでその「スキマ」を埋めようとするのではなく、ただスローダウンして、沈黙し、動きを止めて待つ。
ページ216
^_^ 慌てることで傷口を大きく広げる事はよくあること。緊急事態にも一呼吸置くと言うのは大切なこと。
問題は失敗そのものではなく、失敗に対する姿勢だったのだ。
ページ274
レジリエンスは、衝撃に崩さず、そのままでいる力のことだ。アンチ・ フラジャイル(反脆弱性)は、むしろ痛手を受ける前よりも強くなることだ。
ページ322
【感想】
なんというか、良い本だとは思うのだが、焦点がボケているという感じが拭えない。無知であること、無知であると自覚すること、オープンマインドであること、謙虚であること、初心を忘れないこと。
どれも書かれているのだが、どれも同一の意味ではなくそれぞれニュアンスが違う。それが羅列されていて、焦点がボケているという印象。
しまいには危機に際して従業員を解雇しなかった航空会社が結果的に好業績を残したという「無知」とは関係ないようなエピソードもあって、エピソードとしては面白いんだけど、なんだこれという感じ。