書評『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』難しい。でも面白いでも、やっぱり難しい。何度も読み直したい。

 

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

 

 78点
読み終わるまでに掛かった時間 6時間


 うちの小学校には脳みそがあった。

 今でもはっきり覚えているのだが、ぼくが卒業した小学校の理科室には脳みそのホルマリン漬けがあった。回虫やらカエルやらのありきたりの標本に混じって、人の脳の標本があることに小学生の自分はビビっていた。

 標本には大正の元号と人の名が書かれた札が張られていた。

 子供心によく数十年も落ち着きのない小学生たちの中にあって無事だったものだと感心し、自分がその封印を破る愚か者になりたくなくて、標本棚には近づかないようにしていた。

 ただ一度だけ、持ってみたことはあった。それが教師の許可を取ったのか、掃除の時間にこっそり持ってみたのか覚えていないが、ホルマリンに満たされたガラス瓶はとても重かったのを覚えている。そして何だか変な親近感と人の脳の何のヘンテツのなさに恐怖を覚えた気がする。

 この『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』も冒頭は医学生が人の脳を手にするシーンから始まる。ここに意識が人の人生、人をその人たらしめるすべてが入っているのだ。医学生はめまいを覚える。

 この本もまた読者にめまいを覚えさせる。ちょっと難しい。写真や模式図も書かれいてるがそれでもしんどい。でも内容が興味深いので、読み進めているうちにぼんやりと概要が掴めてくる。

 意識とはなにか、意識が無いとは何か、その答えに科学的な慎重さと謙虚さをもって、著者は迫ってゆく。複雑でありながら個性的に振る舞い、そして統合されている状態。読んでみないと、ちょっと何言ってるかわからない。一度、読んでもわからない。

 高校生でも、サイエンスフィクション好きや生物の科目を取っていれば読み進められると思うが、先ほども書いたがちょっと難しいので覚悟は必要。

 読むのには5章を読み直したりして5時間以上は掛かった。難しい分、何度も読めるお得な一冊だと前向きに捉えたい。話題のAIに意識が宿るのかという疑問にも繋がってくるので、ある意味、今が旬の一冊でもある。

 特にAIに関して書かれた本ではないが、この本を読むとAIに関する認識が変わるかも知れない。

 小学校を卒業して数十年、あの脳みその標本はまだ無事だろうか、、、それとも元気いっぱいの後輩に理科室の床にぶちまけられて、、、。

【『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』目次+読書メモ】

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

 
1章 手のひらに載った脳
 
 医学生が初めて大脳を手のひらに乗せた時の衝撃は宇宙飛行士が初めて肉眼でちっぽけな地球を寒々しい宇宙空間に見た時の衝撃に等しい。
 この塊に自分と同じ人間一人分の宇宙が詰まっていたのだ、、、
 
!宇宙から地球を肉眼で見るのはちょっと難しそうだか、大脳を手にしてみたいとちょっとやばいことを考えてしまった。!
 
2章 疑問の生じる理由
 
意識とは何か、我々と完全に同じだが意識だけがない哲学ゾンビなど、思考実験などで、その本質に迫ろうとする試みは400年以上続いてきた。しかし、それは堂々巡りに陥り、今も答えは出ていない。
一方で脳の科学的分析は進んでおり、将来的には人の脳をシリコンチップの上に再現できるかも知れないとされている。
しかし、人々はシリコンチップの上での永遠の命を求めないだろう。シリコンチップの自分に意識が宿るという確証がないからだ。
 
!謎は深まるばかり、意識とは流れなのかも。シリコンチップ上の自分は自分ではないかも知れないし!
 
3章 閉じ込められて
 
 人に意識があるのかないのかを判定する方法は確立していない。一般的には声をかけて気づくかなどだが、医学的に脳を損傷した人などは外界とコミュニケーションが取れないので意識のあるなしが測れないのである。脳波測定で活動量や同期発火などでも測定しようとするが、現在のところ成果は上がっていない。
恐ろしいことに意識がないものとされて植物状態だとされて病院で寝かされている人に実は意識があるかも知れないのだ。恐ろしいことにだ。
脳の研究は進んでいるが意識の有無を完全に判定する方法は確立していないのだ。
 
!意識を保ったまま、何の意思表示もできず意識がないものとされて永遠に感じるような時間、寝かされているのは地獄に等しいだろう。一週間、意思表示ができなかったら安楽死させて欲しいが、そこから回復する人もいるのだから、難しい。よく、ファンタジーで時空の狭間などに落ち込んで永遠と彷徨うという話があるが、この医学が発達した現代でこんなことがあるとは、、、いや、医学が発達したからこんなことになったのか。!
 
4章 真っ先におさえておきたい事柄
 
睡眠中にも意識はある。つまり、外界との関係性が絶たれても意識は存在する。小脳にはその他の部分を凌駕するほどの多くのニューロンがあるが小脳を失っても意識がなくなることはない。歩き方が変になったりする。
恐らくデータは揃っているのだろう。後はダーウィンの進化論のような画期的な一般法則が発見される必要があるだけではないだろうか。
 
!意識の居所を少しずつ絞ってゆく。誰が法則をひらめくのだろう。ダーウィンのように!
 
5章 鍵となる理論
 
意識は様々な可能性を受け取り、その情報を統合できるとする。
てんかんの治療には左脳と右脳を繋ぐ脳梁を切り離す手術をする。すると意識は2つになるが患者はそれに気づかず普通に生活する。
最も多様性を持ちながらも、情報が共有されている奇跡的状態。様々な専門医が集まってしかも情報が共有されている医療チームのようなもの。
 
!難しい。何を言っているのかわからなくなる。ついていけていないかも知れない。何度か読み返さなければならないかも知れない!
 
6章 頭蓋骨の中を探索してみよう
 
頭蓋骨の中に意識の存在φを探してみよう。試しに頭蓋骨の外にφの存在をさがしたが、肝臓は均一だし、心臓はネットワークという点では合格だが、やはり均一性が強い。
さて脳だが例えば 暗い と認識するのにそれ以外のあらゆる可能性も認識しているのだ。赤くない、緑色でないなど。それらはまさに個性的な認識回路がネットワークされて統合されているのだ。こらぞ意識だ。
 
!一度の立ち読みではついていくのが難しい。φのありかを探す。φの意味。!
 
 

7章 睡眠、昏睡、麻酔 意識の境界を測る

 
刺激に対して複雑で個性的なモジュールが情報共有しつつ、個別の反応を示す。難しいが意識とはそういうことなのだろう。ふんわり。
ここでは人間の睡眠、昏睡、麻酔状態の人びとに意識があるかを調べている。
そして、意識の測定値φが概ね意識の存在を測定できると仮定している。そして正しく疑いながら調べを進めている。
 
!それぞれが個性的でありながら、情報を共有し、それぞれがその情報に異なった反応を示し、その反応がまた相互の反応を示す。意識とはそういうものだと捉えると今の世界そのもの、いや学校のクラスすら意識を宿していると思えて楽しい。そして他を認めない均質な世界では意識は存在しないとすると、他を認めないような世界は意識を持たない貧相な世界なのだ。すべてを白か黒か、軍国主義に染まった当時の日本。ナチスに染まったドイツは統合いう点では高いレベルにあったが、個々複雑さという点では劣った社会に宿った意識レベルが低かったと考えると面白い、今の日本はどうだろう、ちょっと意識レベルが下がってきたような気がする、やめよう。何でも社会に還元するのはこれはもっと純粋な科学的興味に答える本なのだから!

8章 世界の意識分布図

ここでは人間も含め、動物から無機物に至るまでに意識が存在するかを考察している。デカルトは人間意外に意識はないとした。一方、モンテーニュはあらゆるものに意識の可能性を考えた。
完全ではないが体の大きさと脳の容積の比率も意識の存在を推定するのに重要な要素になりそうだ。
タコなどは意識がありそうな行動をとる。
イルカは人間以上にイルカ複雑で圧迫的な社会に生きている。もしかしたら我々、人類よりもイルカの方が意識レベルが高いかもしれないw

!色々ある中で、長年猫を飼っている私が言えるのは猫には意識があるということ。伊達に40近くも観察していない!

9章 手のひらに収まる宇宙

意識レベルを表すφ。それは多くの情報を持ちながら均一でなく、しかも統合されている状態を表す。
進化論で人類は神の子ではなく、猿の親戚だとわかり、天文学は人類は宇宙の中心ではなく、宇宙の外れの銀河のありきたりの恒星の一惑星に住むと知った。我々は特別でないと知った。
しかし、このφの理論が正しいとすると、我々の脳こそがこのφの値においては太陽よりも熱く、φの値においてだけは我々が特別な存在に返り咲くかもしれない。イルカには負けるかもしれないがw

!何度も頭の中で整理しながら読まないとついていけなかった。複雑で大きな情報量を持ちながら、刺激に対して各所、個性的な反応を示しつつ、全体として統合されている、1つの存在。意識とはそういうものだ。合ってる?!