ベーシックインカムで景気調整?『AI時代の新・ベーシックインカム論』書評・目次・感想・評価

[読みやすさ 7/10] 突然、専門用語が飛び出す事もあるので 
[何度も読む 6/10] 何度も読むものではない。様々な意見を読もう。 
[読後感 8/10] 新しい時代の可能性を感じられる。 
[学び 9/10] 右派、左派から、歴史、経済政策まで学びは多い。 
[斬新さ 8/10] 変動BIで経済をコントロールする手法は斬新。 

【Q1】どんな人にオススメ?

 BIをAI時代の到来と絡めて考えてみたいあなたに。日本へのBIの導入がありうるかどうかを考えてみたいあなた。BIが導入避けるかもしれないからそろそろ仕事やめようかと思っているあなた。ちょっとまて。

【Q2】この本の弱みは?

 右派、左派、右翼、左翼などのイデオロギーの説明が入る【第5章】政治経済思想とベーシックインカム はわかりずらい。この章だけで新書何冊分も必要な内容だと思う。説明しきれないのならば、イデオロギーの説明は必要なかったかも知れない。

【Q3】この本の強みは?

 BI(ベーシックインカム)とAI(人工知能)の関係を経済学者の観点から論じた一冊。BI(ベーシックインカム)導入に必要な財源の話に切り込んでいた。BI(ベーシックインカム)を使って景気の調整弁にするという考え方は斬新だった。

AI時代の新・ベーシックインカム論 イメージ

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ヘリコプターマネー

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【『AI時代の新・ベーシックインカム論』目次と読書メモ】

はじめに 
【第1章】ベーシックインカム入門 
1・1 ベーシックインカムとは何か? 
1・2 ベーシックインカムvs. 生活保護 
1・3 起源と歴史 
1・4 現代のムーブメント 
 
 BIの導入は地方活性にも役立つ可能性がある。
 なぜなら地方の方が生活コストが安く、多く稼いで多く使うスタイルでない人には暮らしやすいからである
 BIは勤労と報酬を切り離すのではなく、勤労と生存を切り離す。
 勤労意欲がないというのもひとつのハンディキャップではないのか
 BIの特筆すべき点は社会保障を簡略化したい右派と社会保障を拡充したい左派が共に指示するという点。
 しかし、それぞれに思惑の違いがあって特に左派は警戒している。
 
今は亡きw希望の党などがBIの導入を謳っていたとは知らなかった。また、BIの導入が地方活性の一助になる可能性については考えが及んでいなかった!

【第2章】財源論と制度設計 
2・1 なぜ生活保護よりもベーシックインカムのほうが安上がりなのか? 
2・2 負の所得税生活保護との制度上の違い 
2・3 所得税以外の財源 
2・4 日本の財政危機は本当か? 
2・5 貨幣発行益を財源としたベーシックインカム 
 
 ベーシックインカムによる大幅な財政負担は現在の社会保障制度の変革だけではまかないきれない。
 そこで相続税の30%増で賄う。
 また、国は国債は日銀が莫大な額を買い続けている。
 これはやがて18年もすると市中の国債をすべて買い上げてしまうので財政再建完了である。
 何しろ、政府と日銀は家庭のお父さんとお母さんでその間の借金に意味はないからである。
 その他、ベーシックインカムを基本ベーシックインカムと変動ベーシックインカムの2階建てにして変動の方はインフレ率と連動させデフレ時には増額、インフレ時には減額し、景気調整に利用することができる。
 その財源に一万円を20円で作っているという通貨発行益などを利用する。
 また、政府借金は日銀が直接買い取れるようするべきだ。
 
政府借金を日銀が直接買い取らない現在の制度は維持すべきだと思う。著者は軍備や建設に使わないように法整備というが、どちらも緊急事態という名の下にあっと言う間に野放図になる。中国の動き次第では緊急事態の名の下に軍備のタガなどあっという間に吹き飛ぶし、またあのような大地震が来たら、緊急事態の財政出動を請う国民の要請を政府は拒否できないだろう。そして、それは常態化する。間違いない。
そして著者の言う財政再建の完成が近づいているというなら日本国政府はなぜ税金を取り続けているのだろうか?国民に不評の税など取らず日銀に国債を買い入れて貰えばいいではないか?通貨発行益で政府を運営すればいいではないか?僕の勉強不足なのだろうが、納得できない!
 
【第3章】貨幣制度改革とベーシックインカム 
3・1 貨幣発行益をベーシックインカムとして国民に配当せよ 
3・2 貨幣制度の変遷 
3・3 銀行中心の貨幣制度の問題点 
3・4 国民中心の貨幣制度へ 
 
 民間銀行に通貨発行益がもたらされている。
 これを家計に取って代わららせ国民に広く通貨発行益を与えよう。
 預金は預金として安全性のみを与え、金利なゼロ。
 預金準備率を100%にして民間銀行から信用創造を取り上げよう。
 民間銀行が国債を買い国債を売るだけで利益を上げるのは不当。
 その金利は税金である。
 
!この章はちょっと理解が追いつかない。銀行から信用創造を取り上げて銀行は成り立つのだろうか?金利が上がらないだろうか?代わりに家計が?よくわからない。まあ、銀行がどうなろうが知ったこっちゃないが、お金はどこに借りに行けばいいんだろう?!

【第4章】AI時代になぜベーシックインカムが必要なのか? 
4・1 AIは雇用を奪うか? 格差を拡大させるか? 
4・2 日本の雇用の未来 
4・3 人間並みの人工知能が出現したら仕事はなくなるか? 
4・4 脱労働社会にベーシックインカムは不可欠となる 
4・5 資本主義の未来
 
 2030年には汎用AIを作り出そうという活動が日本、チェコなどにある。
 汎用AIは囲碁会話など特定の作業しかできない特化型AIとは違い、人間のようにさまざまな作業をこなせる。
 これが完成すると多くの仕事は不要になる。
 残るのは経営、クリエイティブ、ホスピタリティの3つ程度になり、全人口の1割程度のAIに勝つ優秀な人だけになる。
 特に銀行はフィンテックの発展でバックオフィスが不要になり大幅なリストラが始まっている。
 クリエイティブな仕事は残る、なぜなら新規な音楽を作っても過去の例がなければAIにはいいかどうか判断できないからだ。
 
!どうだろうか?AIが作った曲をネット上で無料提供し、abテストをやれば全く新しい人に好まれる楽曲だってつくれるだろう、もうやってるかも。ホスピタリティだって、経営だって、人間に勝ち目があるとは思えない。ブスに介護されるならガッキーのアンドロイドに介護されたい。結局、勝ち目があるとすれば究極、人は人を応援したがるという一点ではないだろうか?「この財布、人の手で手縫いなんだぜ、みたいな」!
 
 完全な機械化生産が可能になり、資本家は労働者を必要としなくなる。
 すると潜在的に爆発的な経済成長が起こる。
 しかし、それは潜在的なものに留まる。
 なぜなら労働が必要なければ多くの人には収入がなく、消費者たりえないからだ。
 生産が激増しても消費者が居なければ経済発展はありえない。
 ではどうするか?
 そこでBIの導入だ。
 BIには基本的な生存権を守るための基本的BIと経済成長を調整するための変動BIを導入する。
 大衆は労働せずとも消費者となり経済発展が起こるそのはるか先にユートピアが待っている。
 資本主義の出口は社会主義ではなかった。技術発展によって労働搾取自体がなくなる世界がやってくる。
 資本主義の出口はAIとBIによって現れる新しい社会だ。
 
変動BIの話は他の書籍では見たことなないので斬新な発想だなと感心。とりあえず感じたのはAIを恐れる前にAIで何ができるかを考えるのが先だろう。初期AIは完全ではない以上、人間とAIの共同作業が時代を引っ張っていくことになる。何ができる?何ができる?AIを作る側にはなれそうもないが、AIに命令を出せるようにはなりたいな!

【第5章】政治経済思想とベーシックインカム 
5・1 右翼と左翼は対立しない 
5・2 なぜ右派も左派もベーシックインカムを支持するのか? 
5・3 儒教エートスベーシックインカム導入の障壁となる 
5・4 なぜ怠け者も救済されるべきなのか?
5・5 労働は美徳か? 
5・6 人が人であるために 
おわりに 
 
!突然、なんの解説もなしにネオリベという単語が出てきた。自分の不勉強を棚に上げて言わせてもらうと説明つけろ!

ネオリベラリズム 規制緩和などの自由な経済活動を推進することで経済成長を目指す考え方。アメリカのクリントン政権時代に実施された。民主党クリントン政権時代というのが興味深い。!
 
 右翼、左翼、右派、左派はそれぞれの位置に置いてとてもわかりにくい。
 世界的なあり方がある上に日本にはまた独自のあり方がある。
 右翼左翼の語源であるフランス革命時は当初、右翼には王党派が座り、左翼には立憲君主派が座っていた。
 しかし、一年足らずで王党派はいなくなったので、今度は立憲君主派は右翼には位置し、共和国派は左翼には位置した。
 この様に右翼左翼は相対的なものでもある。
 日本は明治維新後、西欧化すると同時に儒教的思想を持つ中国化したとも言える。
 その方が中央集権と富国強兵に都合が良かったからだろう。
 
!江戸時代、人々はそんなに働かなかったし、町人は結構、乱交状態で長屋のみっちゃんが身ごもったけど誰の子がわからないから、腕のいい職人で年齢もちょうどいいし、みっちゃんにも手を出していた熊五郎と夫婦にしようと、大家が決めたなんて感じだったらしい。そこに義務教育やら儒教の音読から何やらして儒教的思想を国民に押し付けたわけですね!
 
 日本にはコミュタリアン的思想はハーバード熱血授業で入ってきたが相対するリバタリアニズムは入ってこなかった。
 日本にいる自称リバタリアンニートに働けと言ったりする偽物。
 日本にはコミュタリアン的思想は既にあるので必要なかった。
 むしろ、もともとあるので受け入れやすかったのかも知れない。
 ともあれ、日本に深く根付いた儒教エートスが不倫を過剰に非難したり、ニートを批判する現状を作っている。
 その儒教エートスが日本にBIを導入する最大の障壁になりうる
 怠け者は運悪く、怠け者になる生まれと才能を持って生まれてしまったと考えれば救済する対象。
 極論すれば犯罪者も運悪くなので、処罰は社会を維持するために泣いて馬謖を切るということ。
 もちろん、被害者の気持ちを考えれば安易に口にしてはいけないが。
 
!前半の政治的立ち位置の説明は正直ついていけない。こんな紙幅で説明できる内容ではないだろう。後半の明治維新後の西欧化と同時に思想的には中国化したというのは斬新でありつつ納得できる!
 
91点
読了まで2時間半
 
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